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02:空白の時

訪ねられることのなかった、聞こえるはずのないドアを叩く音がしたのは、朝ご飯を食べ終わった時だった。



「よっ!来たぞ!」


手を挙げてドアの目の前に立っていたピオニー。自然とこちらの表情もゆるむ。だってこんなに早く来てくれるだなんて…!


「いらっしゃい!」
「今日も1日世話になるぞ。」


今日もピオニーの顔は、表情はイキイキしていてうらやましい。

そのコロコロ変わる表情が全部全部、私に伝染すれば良いのに。



「あ、少し出かけたいの。ちょっと待っててくれる?」
「せっかく1日いる事だしな、ついていく。」


今日ずっとそばにいる。



さりげないけど、じわりと嬉しい。
























家の周りに咲いている花を少しだけ摘んで、朝一番の真っ白な足跡を刻みながら歩いて行く。


今日の足跡は4つ。それもまた嬉しい。





いつだったか、大好きなキリアとさよならした場所。

昨日、ピオニーと出会った場所。
「ここは昨日の…。」

「おはようキリア。今日はね、一人多いでしょ。」


しゃがみこんで話しかける。返される事なんて無いけれど。


スッと隣に座り込むピオニー。

「俺ぁ初めまして、だな。お前のセツカにはずい分と世話になった。…面倒見が良い事この上なしだ。」
「ピオニー…。」
「お前が出会いのきっかけだった。礼を言わせてくれな。」


隣の顔はやけに優しくて、何とも愛おしそうに十字架を見つめていた。



ああ本当に、この人と出会わせてくれてありがとうキリア。






















家に帰ってからは、昨日みたいにお茶を用意して昨日の続きをたくさん話した。まだまだ、話し足りない。



「セツカは何の仕事をしているんだ?」
「私?日に日に違うんだけど…調理系が多い、かな?こないだもね、ホテルの中に呼ばれたの。」


料理する事が結構好きだった。一人ですることもなかったからずっと料理に没頭していたから。



そう話していると、ピオニーの顔が輝きだした。…何だか嫌な予感。


「それじゃあ一度セツカの手料理を食ってみないとな!」にかっと…本当ににかっと歯を見せながら言われた。


…やっぱりそうくるんだ。


「でも…美味しくないかも…よ?」
「かまうものか。セツカの手料理が食いたい。」



どストレート直球球。よくもそんな事を言えるものだ。…、だって……こ、恋人…みたい、じゃない。


そしてそんな事言われちゃ、作らざるを得ない…よね?

「ちょ、ちょっと待ってて…?」


ああ、今日だけは失敗したくないな…。




簡単だけど、ポトフを作った。
具はしっかり煮込んで、柔らかく柔らかく。

今日も寒いから、あったかくなれば良いな。

















手元から湯気を出し、ピオニーのもとへ向かう。
…匂いは、成功。
「ピ、オニー…?」ひょっこり顔を出す。
「お、待ってたぞ!」手をすり合わせて座り直す。
うぅ、やっぱりちょっと自信無い…。
テーブルにまぁるいクロスを乗せて、その上に熱々のお鍋を置く。
久しぶりに作った2人分。少し加減がわからなかったからちょっと味が薄いかもしれない。

そしてピオニーがスプーンを取って、すくって、それを口に運んだ。



「……あー…何だこれうまいなぁ…。」


そう言ったピオニーの顔は溶けてしまいそうな微笑みだった。


あ、なんだろう。
すごくしっくりくる嬉しさ。


おいしいかどうかすごく不安だったけど、大丈夫みたい。

何だか、すっごく、くすぐったい。




「俺は今まで様々な料理を食って来たが…久しぶりだな、こんな優しい料理は。」
「そ、そこまで誉めなくて良いよ?」


何か恥ずかしくなってきちゃった…。

高級ホテルで作った時より、心が落ち着かない。



「本当の事を言って何が悪い。…うまいぞ、セツカの料理は。」
「…ありがと。」





その後、ピオニーはお鍋がきれいになるまでにたいらげてくれた。






たった2日。


たったの2日でこんなに仲良くなるなんて。


















恨めしくなるのは




もっともっと前に、出逢いたかった。






あきゅろす。
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