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10:何処かで目を覚ます





どうしよう。どうしようどうしよう。


この状況を、どうやって打破しよう。




ピオニーとハニーブラウンの女の人を目撃してから、物陰に隠れたのはよしとしよう。


…でも、どうして、今、目の前に、ピオニーがいるのっ!




───つまり、見つかってしまったわけだ。







「セツカ!?お前っ…こんな所に座り込んで何やってんだ!風邪ひいてるんだぞ!?」



帰り道がこちらだったらしいピオニー。
運悪く見つかってしまいました…。



「あ…の。その…えっと…。」

どう答えたら良いものか。


どう答えたって墓穴をほるに決まってる。



「まぁ良い、詮索は後だ!早く帰るぞ!」


ピオニーがすくっと立ち上がり手を差し出す。

その手を取って立ち上がろうと力を入れる。



……が、力にならずその場にへちゃんと座ったままになる。

…か、体、重たい……。



そんな私の様子を見てピオニーはもう一度しゃがみ込み、もう一度立ち上がる。


今度は、なんと私付き。



「ピ…ッ!ピオニー…ッ!良い!大丈夫!歩ける!」

「大丈夫なわけあるか!現に立てもしなかっただろうが!…大人しくしとけ!」



うぅ…、ピオニーの言うことももっともなんだけど。でも。


「わ、私重たいから…!」



今、自分でだって重たいと感じるほどだ。

そんな自分を、抱えてもらうだなんてそんなおこがましい!



「何言ってんだ。…悪いが、全然軽いぞ。」

「────…っ!」



にやりと笑ういつもどおりのピオニーの顔。


近い、近すぎる…。



結局私は、わかりきったように顔を真っ赤にして、俯いたままピオニーに家まで連れ戻されました。
















***
















「────で?」


家に着くなりベッドに寝ころばされ、そそくさとサイドのイスに座ったピオニーに問われる。


……で?って、率直すぎる…



「…起きたら、ピオニーどこにもいない、し…。」

「あー…、そりゃ悪かったな。」

「ちょっと不安になって出かけたら、いた…けど、知らない人と話してて…。」

「…おぅ。」




あ、何か涙出そうになってきた。



「…ピオニーの、顔。」

「……顔?」

「すごく…楽しそうで…愛おしそう…で。」




あ、何か本当に出てきた。
ばか、耐えろ私。


「何か…出て行きにくくなっちゃった…。」

「…セツカ……。」




ああ、もうダメだ。限界。
よく耐えた、私。

……言ってしまえ。



「……きっとピオニーは、あの人が好き…だと思うけど…。でもっ…!」

「ってちょちょちょいと待て!」

「……?」




これから言うところだったのに。
一大決心のたまものが……見事に遮られました…。



「……そう見えた…のか?」

恐る恐るこちらを見ながら確認する。


「…違う、の?」

いや、でもあの眼差しは確かに…


言うとピオニーはがしがしと頭を掻いて、あーとかうーとか言葉じゃない音をのばす。


「間違い…ではない…が。」

………ほら、やっぱり。



「……でも、違う。」

「─────え?」


違う?違うって言った?
何が違うの?



「確かにネフリーは…好きだった。…が今は、違う。」


ネフリー、ていうらしい。
…今は、違うって…今は…好きじゃない、ってこと…?




ガタ、と音がしてふとピオニーを見なおすと、イスに座りなおしてこっちをじっと見ていた。



「…ピオ……?」

「───今、俺の心に在る人は、お前だセツカ。」



「────……!」



目をゆっくりと見開く。





「今、俺が愛しいと思う人は、セツカ。……お前なんだ。」

「ピ、オ…ニー……。」



ああ、自分は都合の良い夢を見ているんじゃないだろうか。


だって…


こんなに想い焦がれた人から、


ずっと……



ずっと…


ずっと、聞きたかった言葉が紡がれた。






深緑の目からは透明の水がとめどなく溢れる。


それを今度は、目の前の愛しい人が拭ってくれる。








そして、暖かなぬくもりに優しく包み込まれた。

ピオニーの匂いでいっぱいになる。……ちょっと変態っぽい、かな。




「…さっきの『でも』の続きを聞かせてもらおうか?」


その顔は、いつものにやり顔だった。

…この人、わかってる。絶対わかってるよ……。





「……いじわる。」

「んー?」



何もわからないという風に聞いてくるピオニー。



さっき、言おうとした時遮ったくせに。

そう言うと、はは、と笑って密着から少し解放される。



お互い顔を見合わせて、もう一度ピオニーが近づく。



あ、あのときの愛しい顔。



一瞬だけ確認して、瞼を閉じる。


その後に降ってきたのは、柔らかなくちづけ。










































「ピオニー、私、夢を追う事にしたよ。」



出航の朝、最後に家を訪れたピオニーに言う。


…この、抱きしめられた状態がすごくすごく恥ずかしいんですけど。



「そうか。セツカが上手くいくよう願ってる。」


耳元で声がするのもすごくすごくくすぐったい。

…だから、顔が緩むのは見逃して欲しい。



「ありがとう、私頑張るね。」

「…また、会いにくるからな。」


とっても嬉しい言葉。

だけど。



「ううん、いいの。」

「?」



また少しだけ距離をとってピオニーの顔を見る。



「私、夢を叶えてピオニーに会いに行く。私が会いに行くから。」

志半ばでは会えないな。
やりきった後で会うっていう励ましにもなるし。


「…わかった。…待ってるぞ。」

「それまで、さようなら。……またね。」






















この心が、


この雪が、




流れ流れて暖かくなったら、







この白銀の世界から飛び立とう。





貴方のいる、美しい世界へ。






きっと、


2人が同じ世界を歩むのは、


すぐそこ──────……。


















































「────ジェイド!!!!」

「……何ですか、陛下。」


勢いよく自室の扉を開けられて、仕事に没頭していたジェイドは幼なじみの訪問に眉を寄せる。




「いくら陛下とはいえ、ノックくらいして頂きませんと──…。」

「いたぞ!」

「─────…は?」



思い切り話を遮られた上にまったく主語の無い話を始められる。


常人ならばまったくかみ合わない会話だが、


「──あぁ、そういえば。」


この男には、わかってしまうのである。








つい先ほどまでピオニーは、いつもながら面倒くさそうに書類に目を通しながらサインをしていっていた。



確か今年新しく宮殿が抱えることになった者たちの詳しい書類だ。


その中でも軍に入る人数が圧倒的に多い。例年にも増して多かった。


嬉しいのだが、一人一人に目を通すのが意外と時間がかかって面倒なのだ。


だがこれも一国の主たるもの、怠けるわけにはいかない。



落ち行く瞼と戦いながら一枚一枚目を通す。



────と、その中の一枚に見覚えのある名前があった。



見覚えのある。というか、待ちわびている。





「…───セツカ!!!?」



彼女の名前が、そこにはあった。


まさか。そんなまさか!


会いに来るとは言っていた。だがまさかこんな形で!




よく読むと、どうやらセツカは厨房に入ってくれるらしかった。



───夢。彼女の夢は、こういう事だったのか。



一番彼女らしい会い方だったのかもしれない。

まさか、こちらで仕事をするだなんて!







「──で!?いつ正式に入るんだセツカは!」

「…思い切り個人的ですね。…陛下が書類にサインし終わり次第決まるんじゃないですか?」



ジェイドが言い終わるか否かわからないうちに急いで仕事に戻ったピオニー。





そんな彼を見てため息をひとつ吐いて、肩をすくめ、誰に言うわけでもなくぽつり。



「まったく…。困りものですね、陛下も。」










その後、ピオニーが異例の早さで仕事をあげたのは言うまでもない。



雪の妖精が廊下を進み、その部屋の扉を開けるまで、あと……。












































世界には、数えきれないほど人がいるんだもの。

周りを見渡して見て。


ほら、今日だって





恋が必ずあるはず。


こんな恋のひとつもあるんだ。




〜Fin〜



あきゅろす。
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