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我欲 ネジ


足がすくむのは私に力が無いからだろうか。それとも信念を備えていないからだろうか。どちらにしても、あるいはどちらでもないとしても、私がここから一歩を踏み出すことが出来ずに立ち往生する道を選ぶことしかしない、忍としては粗雑で出来の悪い人間であることは揺らぐことはない


「随分と不機嫌そうだな」


「そう見えますか」


控室で足を組み、腕も組み窓の外を睨んでいたところに先輩上忍である日向ネジが入ってくる。備えてあるお茶を汲みながら、彼は私に背を向けたまま少し肩を上下に揺らす。さあ、どうだか。さしずめそのあたりの意味を持った動きだろう


「任務は」


「これから通達が来る手筈になっているそうです。なのでここで待機を」


「確か、今回が上忍となって初の任務だったか」


私の前に腰を下ろし、一口お茶を飲んだところでやっと視線がかち合う。その瞳は、初見では物怖じしてしまうほど特異で、それなのにどこか淡く温い。私はそれが苦手で、咄嗟に視線を外す


「私が上忍になるのは早いのではないか、という声があるのは知っていますよね」


「ああ」


「それについて、先輩はどう思いますか。率直に」


「それを聞いてどうする」


「正直、私は自分が上忍になるべきではないと思ってきました。今も、時期的にではなく、この一生の内に上忍になってはいけないと思っています。でも、それでも私を推す声があるのなら避けるべきできではないと考えここにいるのですが、そろそろ限界で」


「期待を裏切るようで悪いが、俺はお前を推した側の人間だ」


少しは返事に思案して暮れてもいいのに、即答ばかりされ嫌気がさす。この先輩はそういう人間であることは知っていた。知っているからこそ聞いてしまうこともある


「なぜですか」


「お前を推した理由などそう多くない。ただ、徹することができる人間だと思っているから推した。お前は冷徹に徹することができる、この里じゃ少数派の人間だ」


(ああ、)


「そういう見方をするのはあなたならではですね」


「そんな事はない。皆、いざとなれば身体が動いてしまう自分を律することはできないと知っている。だから、比較的近くにお前のような人間を置いておきたいと考える」


「それを表の世界に置きたいと考えること自体が傲慢ではないかと」


「ならばその感覚を頼っていけばいい。俺はお前を適任であると判断し、それに頼ってもいる」


人は認められることで強くなれるのか。そんなものに本当に意味はあるのか。私にはこれらの言葉から心を動かされることはないけれど、それでもやはり任務に向かわねばならないのであろうか。そういって、私は限界を広げられていくのであろうか


「最低な気分です」


「だろうな」


何故か急に笑みを見せ、眼前の男は立ち上がる。見降ろされると、ぐっと息が詰まり動けなくなったような気がした


「何ですか」


「任務の詳細を伝える。今回は俺と組んでもらうことになった」


「趣味が悪い」


「言っただろう。俺はお前を推した側の人間だ。ならばこそ、この任は俺に」


「いいです。もう分かりました」


感じるは落胆か、失望か。それらとは似て非なる燻りに気がつかない振りもできそうにはない。でも、まだそれに耐えられはしないのだ


「降参か」


「…あなたって人は、随分とまた不誠実な」


「存外、手に入れたいものは手に入れる質でな」


その視線は確かな熱を巧みに隠しつつも、私に直接届く。頭が痛い。思考が追い付かないままに、私は望まれるままに立ち尽くすのみ






(くどいほど、何故か魅惑的な扇情)



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