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月を見上げて 夜叉丸


慈悲深いあなたのことですから心配はいらないと思っています。えぇ、本当ですとも。え?あぁ、それはまた少し訳が違いますかね。いえいえ、決してそんな意味ではありませんよ。…いえね、信じてはいるんです。けれど、ほんのすこし、あなたを怖く感じる時があるのも事実ですよ。その鬼才はそれほどのものだということです


(だけど結局は私の詭弁を最も劣らないカタチで表しただけなのかもしれない)


あ、機嫌を損ねてしまいましたか?はは、本当にあなたは姉さんより分かりやすい人ですね。でも、だからあなたで良かったんでしょうね。きっと、そう


(……)


少し、昔話をしてもよろしいですか。僕が我愛羅様の教育係になった時のことです。まず、僕自身の賭けのようなものでした。理解もしていたつもりですし、割り切ったつもりでもいました。しかし、どれだけそうしようと努力してもそうはいかないのが世の常でしょう?どちらに転ぶかは僕にも分からなかった。結果として、僕は転びたくはない方向に転びました。ええ、キッカケは、あなたでしたね。けれどあなたは試しただけでしょう。僕が、我愛羅様を手にかけるか、そうでないか。僕は僕の意で死を選びました。裏切りの死です。私はあなたをも裏切り、そしてここにいる


(あぁ、もうあなたは全てを受け止める気なのですね)


僕はお呼びにもかかりはしません。あなた、が行かなければならないんでしょう。私は、あなたが逃げたとは思いません。事実、私に委ねたこともなかったし。え、いや…はい。少しは


(やり場のない怒りも感じた)


話が逸れました。けれど、今になって思うんです。僕がどれだけ、例えばあの時踏ん張って、我愛羅様を護っていたとしても


『あなたが、我愛羅の父親だから』


あの子を人として立たせるのはあなただけの役目です。迎えは、ええ、きっと


(姉さんが)


光と共に浮遊し、口寄せされた四代目を見送る。死しても、行いによりどこへも行けぬ僕が居るこの暗闇。何故か、四代目も共に居た。だが、おそらくそれも今日で終わりなのだろう。僕は僕の成すべきだったことをした。死して、なお


『夜叉丸、』


『姉さん、僕は先に行きますね。四代目が…いえ、兄さんを迎えてあげるのはあなたの役目だから』


『えぇ、そうね…夜叉丸』


『いいんです。もう何も言わないで下さい。僕は、これ以上ここには居られないから』


姉さん。僕は、後悔をしている。そして、それは背負っていかねばならない。ここでいくらか吐き出しても、また揺れてしまうだけでしょう


(我愛羅様、あなたが、)


僕を思い出す時。穏やかな波があなたを襲うなら、僕もまた細やかな欲求をその波へ乗せて。止まらずに、しかし穏やかに、心落ち着くまで緩やかに










月を見上げて
(揺れる水面に焦がれ返そう)





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あきゅろす。
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