決して 我愛羅
静けさが不安を煽る。その不安はとても漠然としたものだ。だが決して和らぐことはない。誰もが他人を求める理由の中で独りの意味を恐怖する。求めた先に空白しかない、俺。今日はまだそれほどでもない。今日は、大丈夫。目を瞑り、横になってみる
(ざわざわと、雑音が大きくなって)
侵食されていく感覚。頭の奥が緩く痺れて上手く立ち回れなくなる。温もりを求めているのか、求められたいのか。そういう問題なのか、それ以前なのか。そんなようなことしか考えられずとも、浅く辿るような夢を少し見る
“我愛羅様”
俺に向ける笑顔。触れて伝わる温もり。あの頃はこんな気持ちにはならなかった。酷く惨めで焦燥に駆られるような、こんな
“我愛羅”
父様が俺の名を呼ぶ時は決まって喚起の時だった。風影という仕事の忙しさから話す機会はロクになく、呼び出されたと思えば里の者を傷付けるなと忠告されるだけ。本当に、本当に少し気持ちが高ぶっただけで
(砂はそれを何倍にもして現象化するのに)
夜叉丸は俺を特別だと言った。その力を制御できれば、父様も俺を怖がる里の人間も兄姉も褒めてくれると言った。それだけが希望で、光だった
無謀な行為であったことは、彼が最も理解していただろう
どのような気持ちでその瞬間を迎えたのかは想像を絶する。俺のチャクラを帯びて強度を始めとする全ての性質、名称が凶器となった砂が自身の身体を貫く。俺を陥れたかったのか。当時の俺はそうだと思った。絶望を貫くほどの衝撃が先駆の衝動となり、俺を変えた。今思えば、彼、夜叉丸が俺を殺そうとしたのはただの表現にすぎないと思うのだ。彼に力は無かった。彼の絶望という堪らなく寂しいものを表現する力だ。しかし手段はあった。俺というたった一つにして恐らく当時最も確実な。夜叉丸は里の為に姉を失い俺を得た。おぞましかった筈だ。俺の全てが
(彼はこの里を、次いではこの世界を)
俺が俺の絶望で消し去ることを望み、そして彼自身を俺の絶望として捧げたのである。それこそが俺の唯一の愛であったのだから、どうしてもその先を見いだせない。それはそれでも、構わないとさえ思うのは
(俺が未来を信じる証拠…)
少しの風が髪を揺らす。ゆらゆら、淡くぼやける視界は酷く暗いのに少し明るい。もう少し、この浅い巡りと共に眠っていたい
決して
(逃げ出すことはない)(穏やかに眠れるこの時からも)(あなたからも)
大分落ち着いた我愛羅の睡眠がテーマでした
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