術中 我愛羅 誰かが言った言葉を繰り返してみても何も感じない。なのに自分からは言葉は出ない。出したいと思わない。それは寂しいことだ、とカンクロウは怒ったような顔で俺に言った。テマリはそれを揺らぐ瞳で肯定した (お前たちの言葉など、) 何も感じない。理解したいとも思わない。本当にただそこに言葉が満ちているだけで、それは俺に触れることすら叶わない。俺は見向きもしない。ただそれだけ 「我愛羅が何考えてんのか分かんねぇ」 「…あの子は変わってるからね」 仕方ない、とそれでもって閉じられた会話。盗み聞きした訳ではなく聞こえてきただけの姉と兄の言葉の羅列。変わっているだと?仕方ないだと?皆そう口を揃えて俺を疎外する。だが、俺を化け物に変えたのは誰だ。この里の誰もが知っているではないか。自分の、息子に、 (尾獣を宿らせた父親は変わってはいないのか!) 感情が高ぶる。満月の夜だ。ただ欲望に任せ目についたものを殺す。もし、俺ではなく他の、誰かにこの尾獣を宿らせていれば こんな風にはならなかった? 幾人もの血を吸い重くなる砂の粒。朝がきて、俺の頬を伝う涙とも言えぬそれを拭うのは渇いた風のみ。砂など嫌いだ。砂漠など嫌い。雨が降らねば何もかも渇き切ってゆくだけではないか。この涙も、誰かが見ることはない。兄も姉も父もいる。なのにこの孤独感は何だ。家族とは、一体何だったっけ。それは、本当に、必要? (殺して、も) 変わらない。言い切れるのに、何故だが想像すると苦しくて、悲しくて “我愛羅様” 愛された記憶なんて錯覚を呼び起こしてしまう。俺の心臓1つで救われた筈の人間。俺の命を護る渇きの砂。それに触発されるかのように留まらない接近と開示の欲望。ただ認めて欲しいだけなのに、なんて。愚かな永久の欲望はどこまでいけば消えてくれるのか。ただ辛い闇の中、俺は泣いている 術中 (孤独という罠) ←→ [戻る] |