酷く甘い 我愛羅
薄気味悪い存在感。相手にする、しないの問題ではなく、それに対して肯定せざるを得ない事態が起こったのは数年前のこと。 先代の風影の息子が異例の若さで風影に就任したのだ。過剰な殺戮本能を発揮すべく裏へ身を捧げたと思われた兵器、が公然のものとして扱われる。里の多くの者たちはそれに不安を感じていたが、彼の正規部隊での活躍から積極的に応援する者も少なくはなかった。そして現在では、彼に不安をもつ者など恐らくこの里にはいない。寧ろその反対で、事実、彼は身を犠牲にし暁から里を護っている。一度は死した身ながらチヨバア、そして木ノ葉のうずまきナルトらに助けられ生き返り、そして今もなお風影として全てを固持している彼の名は
「我愛羅様」
私が1人で切り盛りするお店の中に入ってきた彼は特に悩む風もなく真っ直ぐに私に向かって視線を寄越した。年に一度、この瞬間が訪れる
「いつもの花を」
「用意してお待ちしておりました。なんせ里中が我愛羅様の生誕日をお祝いする、と騒がしくなっておりましたので」
淡く色付く一種類の花だけを集めた花束を差し出すと、我愛羅様はほんの少しの間それを見つめてから手に取った
「砂ばかりのこの地でよく育つものだな」
「砂漠の花屋、などと珍しく思われたりもいたしますが、実際は先々代から続く品種改良のお陰です。誰が世話しても花は咲くようになっているのですよ」
「お前の育てた花は、どこか母様を連想させる。写真で見たことしかないあの人が好むと思える」
それはお前が特別ということだ、と我愛羅様は花に顔を近づけ些細な笑みを浮かべた。今日は我愛羅様の生誕記念日。そして、我愛羅様の母君がお亡くなりになられた日
「ありがとうございます。もしよろしければ、どうぞその花に名前をつけていただけませんか?過度の品種改良を行ったものは新種となりますが、私にはどうも名前をつける気が起こらず」
「お前の名は」
「名前、ですが」
「ではこの花の名は名前だ」
手の中の花束から一本引き抜くとそれをお金と一緒にカウンターに置いた我愛羅様は店を後にしようとする。私は慌てて口を開いた
「なぜお母上の名前ではないのですか」
「…確かにこの花は母上を連想させるが、この匂いは」
お前と接する時の穏やかな気持ちを思い出させる
それだけだ、とそれを最後に我愛羅様は店を出て行った。お金と共に添えられた一輪の花の匂いは、どこか我愛羅様のように思えるから不思議な感じがした
酷く甘い
(だけど手放すことは出来ないその花の名を呼ぶ)(そんな貴方を想ってみたいものです)
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