そうして夜 キバ
把握しきれぬ命が一瞬で消える時代。自分という存在に意味を見いだせるなら、それは恐らく最上級の幸せなのだ
「名前…」
風が吹き木の葉が一枚ずつ不安定に揺れて重なり音を奏でる。それに乗せるような囁きは私の名前。絶妙な浮遊感とむず痒さに拍動が少し大袈裟になる
“キバ。どうしたの?”
「もう2年も経っちまうぜ?俺が、」
お前に告白してから。とキバは少し、ほんの少しだけ照れたような顔をした。けれど、表情の殆どは悲しみの色で染まっていてそれは誤りかもしれない。でも、聞いてキバ。私はずっと返事をしてるの
“私も好きだよ、”
「お前、返事は帰ってからするとか言ってよ…」
“キバ。ねぇ、聞いてってば”
「二度と話せない身体で帰ってきやがるからどうしようもねぇよ」
“ちょっと待って。もっとよく聞いて”
「死んだら意味ねぇだろ……バカじゃねぇんだから」
“…あぁ、またそれ。バカなのはあんたじゃん。2年も私の骨が埋まってるだけの場所に通っちゃってさ。それなら少しは私の声も聞く努力しろっつーの。何の為の2年なのよ”
「でも、まだお前が好きなんだから仕方ねぇよな」
諦めたように笑う彼が極彩色の花を置いた。あぁ、私の幸せはそれだけあれば充分なのに。後は君にこの声が届けば、君にとて幸せはくるはずなのに。そう思っていることも、君に届く日は来るのだろうか
そうして夜
(朝だけが来ない日々を、あなたの為に耐える今)
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