慈悲の鼓動 カカシ
泣くことがいかに人間くさい行為であって、仮に万人に許される弱さの象徴的なものであったとしても、私は決して泣かない。弱さを露にするのが嫌いで許せない。戦争で両親が死んだ時だって、任務で仲間が死んだ時だって、残忍によって殺された母子を見た時だって、息が詰まる苦しさと悲しみと寂しさを感じたのは事実だが、けれど、絶対に涙は見せなかった。1人であっても、それは変わらなかった。それを意識しすぎて癖になったのか、今は悲しみすら曖昧にしか感じられない
「少し、早かったですね」
「この世界じゃ早いも遅いもない」
「…確かに」
アスマ上忍の墓石の前に立つカカシ上忍を後ろから観察する。殉職したアスマ上忍にはお世話になっていて、けれど私には曖昧な悲しみしかない。薪を全て燃やして緩やかに消えていく炎のように、また1つ消える。消えて、消えて消えて、この世界の行き着く先には何も残らない気がする。カカシ上忍の背中も例外ではない。だってほら、アスマ上忍のそれは消えた
「名前。お前はよくやってるよ」
「はい?」
「俺を泣かすぐらい」
「…カカシ、上忍?」
相変わらずの背中の先に泣き顔があるとは思えない。一体、何が
「上手くやりずきて、泣けもしない」
不意に後ろからなんと可哀想な存在なんだ、と言わんばかりに抱き締められて声が出なくなった。見上げてもカカシ上忍はやっぱり涙を見せてはいなくて
(カカシ上忍、の鼓動が)
ひたすらに早い。それが涙なのかと思うと、なんだか可哀想に思えた
慈悲の鼓動
(互いに鳴り止まぬ振動)
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