思うのは 飛段
彼の手は冷たかった。頬に触れてみてもそれは同様で、私は思わず声を失った
(嘘…)
いつもジャシン様ジャシン様と五月蝿く、怠ったことのない儀式の最中の飛段が何をしても喋り出さない。今までは邪魔するたびに怒鳴ってたのに。それにどんどん冷たくなっていってるように感じられる。唇の色も悪くなっていってるような気もしなくもない
「飛段…?」
そんな筈はないと思いながらも声が震える。泣きそうな、弱々しいそれにも彼は動じない。何で、どうしてこんなに急に、不死身の身体だったじゃない
「飛段…!」
胸ぐらを掴んで持ち上げようと試みる。結局は彼の頭が少し浮いただけに終わった。けれどそこから手を離すことは出来ない。カチャリと彼の首もとでネックレスが揺れた
“俺は、お前が”
そう言ったままいつも言葉をつまらせて、遂に言わないままにするつもりなのか。頬を赤らめて視線を反らす姿にもどかしさを感じて、何度こっちから言ってやろうかと思ったことか。それでも言わなかったのはアンタの体裁を守ってやろうと思ったからなのに。なのに
「好きだったのに」
口に出せば更に後悔の念が押し寄せてブワ、と私の目から涙が零れ落ちた。もうどうしていいか分からないまま、身体が吸い込まれるように彼の唇と自らの唇を合わせるように動いた。軽く触れて離れようとした頭を再び掴む手に思考は止まる
「っん…!」
ガシッ、と私の顔を両手で掴み深く口づけてくる彼は生きていた。演技だったのか畜生、なんて考えられるほど長いキス。血の味もするし、何だか頭は真っ白になりそうだし、止められないし
「っは、ぁ…」
「俺も」
「、」
「お前が好きだ」
もう本当に馬鹿じゃないの?こんな演技までして私に言わせたかった訳?男なら自分で言ったらどうなのよ、このヘタレ野郎。なんて思考がいくつも巡るから私は何を言っていいか分からなくなって。ただ彼にしがみつくように抱きついた
「ヤケに素直だな、おい」
「なんでこんなに冷たいの」
「血、流しすぎちまった」
「…ばっかじゃないの」
「うるせ」
「ニヤニヤすんな、キモい」
思うのは
(君がこんな想いをいくつ経てきたのか、なんて)
(何故かひたすら悲しくなるようなこと)
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