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09 契りなき盟約


流れたのは鼓動。閉じたのは胎動。己の波に気付くのは夜の波






09 契りなき盟約







「…なにその顔」


木の葉創設より前の戦乱にあって、うちは一族に与した我々一族の長はこの地に不落の結界を築き、己の力の限りを尽くした。それが自身にとって最悪の結果になるとは思いもよらずに


(千手柱間を話題に出したことがないのは、あの人にとってまだどこか希望であったことの裏返しだろうか)


「痛みは」


「そこまでない、けど。水が飲みたい」


うちはマダラとは同世代だったようで、間柄も親しいものであったのは間違いない。彼女は歴史を語るとき、まずマダラの名を出して笑みを浮かべる。そうして築いたものを結果として名ばかりの協定で失った彼女の心情は察するに私は余りある。千手柱間が火影に就任し、さらに木の葉の里が大きくなるに従い彼女は一族の立ち位置と己の信念の狭間で


(恐らく、うちはマダラの背を追った)


「待ってろ」


里の護りとして自身の叡智を施した結界の機能を削ぎ、広範囲に途切れなく展開する感知結界を構築する作業は。一族の行く末を愁い、一族に裏切られた親しき男の死は。己が信念が通じていたからこそ、与したその男を排した里は。自身の結界の力を分散し、他里へ解除不能の罠として展開するに至るに充分な動機だったのだろう。そうして、それらは火種として第一次忍界大戦を開戦せしめるに大きく寄与した


「気分はどうだ」


程なくして戻ってきたゲンマから水を受け取り、飲んだところで視界が大きく開ける


(また、意識を随分と飲まれた)


「大丈夫。今回はちょっと反動が大きかったみたい。初めてのことだったから、身体がびっくりしたのかも」


悟られるな。いつも、意識が本当の意味で戻ると緊張と緩和が繰り返し波になって蛇行する。緩い、静かな底に足をつけているのは私だけだと、そう気付かせてはいけない


「もう夜になる。今日はこのまま休め」


「うん。あ、ダルイさんは」


そういえば、と思い出したのは少しひりついたダルイさんの背中。あれからどうなったのか、気になったのは興味に近かったのだろう。何の気なしに出た問いに、ゲンマは敏感な素振りを見せた


「雷影の右腕ともなればVIP、今ごろあそこで休んでるはずだ」


窓より先、見える商店街の中央。歓楽の中心に位置する宿舎の輪郭を一際目立たせているのは、光量と大きさだ。私も遠目にみただけだが、その内部は外観に負けず豪華なのだろうと思ったことを覚えている


(ダルイさんはそういう扱いを受けるような忍なのだから、わざわざ私を送るためだけにここまで来ない)


恐らく、私が意識を失っている間にその真意が見えたのだろう。五代目には何を伝え、何を持ち帰らんとしているのか


「五代目とは話は出来たのかな」


「…お前が寝ている間に挨拶は済ませていたみたいだが」


やはり。ただ、詳細は知らない、ということを伝えるのは言葉でなく眉間の皺だ。普段なら、お前は関係ないことだとバッサリ打ち止める質問だったのに。本当は、何か。割りと深い事情まで知っているのだ


「そう」


それに対して是非を問わないのならば。問うことすらも出来ないのならば。私は態々、安心させる言葉など紡がない。紡ぐ意味も分からない。たといゲンマが何かを言いたげだったとしても、私は知らぬ夜を過ごすことを貫く。いつものように、滞りなく


「食事はそこに置いてある。他になにかあれば人を呼べばいい。ここはいつでも人が出入りしてるからな」


火影直轄の医療施設だろうことは窓の景色からわかっていたが、やや広めの個室。ダルイさんほどではないにしても、なかなかに手厚い待遇だ。倒れてみるもの…というのは不謹慎か


「うん。ありがとう」


また明日な、と。ゲンマの背中。ほっとするような、何かを伝えたいような。はっきりしない曖昧なそれは、何か嫌な予感を覚えさせる。ぐっと詰まる自身の胸の意味は分からない。あとにはただ広い空間に静かな自身が沈むだけ









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