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07 往路の雨


少しは慣れてきたものの、その速さは私が身につけていない新鮮なものであることには変わりなく、驚きは木ノ葉につくまでには耐えそうもない。しかし、それにしてもこの速さにゲンマがついてこれるというのは予想外だ


(四代目に置いて行かれないように、その速さを求めたのだろうか)


「雨」


「はい?」


「止んできましたね」


「あ、そういえば」


油断すれば舌を噛んでしまいそうな速さの中で声を出す事ができる程度には慣れてきた状況で、ダルイさんも笑っている。事情を知れば似つかわしくないこれらを、生憎好んでしまっていることはゲンマに悟られないようにしなくては


(私には、立場などそれほど関係ないのだけれど)


大きな足をこれでもかと動かすのは雷を纏う獣で、ダルイさんの口寄せらしい。その背に乗せてもらい足元が不自由な道のりを駆け抜けて行く。雲隠れから離れていけば天気は嘘のように雲のない晴天へと移って行き、いささか作為を感じざるを得ないほどにあっけらかんとしている


(寧ろ、暑いほど)


風は強く吹き付ける。しかしその大半を受けるのは私の前に大きな盾のように存在するダルイさん。その背中は不思議と違和感がなく、手を添えたいと思わせる親近感がある


「そろそろ山を越えるっすね」


言葉と同時に視界が拓け、その落差に思わず背中の布を強く握り耐える。回る風が耳のそばを通りすぎ、大きな音を落としていく。強い緑の匂い。木ノ葉の匂い


(重い、埃が積まれた部屋を連想させる嫌な匂い)


「速度、落としましょうか」


「あ、いえ…」


思わず強く掴んでしまったのを気にかけてくれた彼に曖昧な返事をして、何気なく手を離そうとすればまた揺れて先ほどよりも強く握る体制となる。ふと、布を介した先の背中の大きさと力強さを感じてなにやら複雑な心持ちになってしまう


「じゃ、ここからちと揺れると思うんで、しっかり掴まっててくださいよ」


離れようとした私の両手を自身のベルトの位置まで引き寄せた手は厚く大きい。大雑把な物言いの割に丁寧な性格をしている


(掴み所のない人だ)


しかし、この速度で本当にゲンマは着いてこれているのだろうか。もし、このままはぐれてダルイさんが私を拐ったとしたら、木ノ葉ではなく雲隠れの人間として生きていくことになるのだろうか。けれど結局、里の方針に従い結界を懐柔せよと無茶を仰せつかるだけだろう。今となにも変わりそうにない


(状況を変えるに値する代償を持ち合わせていないことが全て)


「もう少しですね」


少しのため息が付随した言葉に返事はない。朝とも夕ともとれない太陽の光が変わらず眩しく照らし続けていく道を私たちは進む。無意識に緩めようとした腕を捕まれると同時に身体が浮遊感に鼓動を止めた


「っ、!」


開けた視界を遮る背中の先にはどうやら崖が開けていたらしい。宣告なく落ちていく感覚にやむを得なく彼にすがる時間が長く感じる。けれど、それはやはり一瞬だったようで、やっと開いた視界は既に木ノ葉の門前に近い道の真ん中で


「もう少しゆっくりでも良かったっすかね」


はは、と今さらに言われ、なんとこたえたらいいものかと思案する余力もない。なんとかダルイさんの腰から手を離すが、力が上手くはいらずに降りられない


(ああ、情けない)


普段なら憎いゲンマの渋りながらも手を貸してくれるであろう場面を思い浮かべてしまう、それは少しの間だったのに


「これで大丈夫ですか」


いつの間にか下に降りていたダルイさんが許可をとるにしては曖昧に私を見上げ、戸惑う間もなく腰を掴み上げる。バランスをとるために無意識に彼の肩に手を置くと、意外にも冷えた皮膚の感触が手のひらいっぱいに広がった


(風で冷えたんだ)


「…ありがとうございます」


いえ、と返す表情は相変わらずなにを意図しているのか分からない、無表情に近いなにかを浮かべたものだ、が。行動が伴っていない。雲隠れはこういうのが当たり前の距離感なのだろうか…慣れないものだ








07 往路の雨
(っ、ちったぁ後ろも見て進んでほしいもさ、もんですけどね…!)
(あ、ゲンマ…)




あきゅろす。
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