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05 志操なく
(※)封じ込めて の続き


最初に教え込まれるのはある人物について。それは一族の誰もが等しく受ける教育であり、私とて例外ではない。けれどその話を聞くにあたり、何故か私だけがとある部屋へと連れていかれた。そこは湿気をため込み、埃がその水分を吸い重く倒れこんで積年、という雰囲気を隠さず主張していて、実に不愉快だったことを覚えている


(その部屋には、もう何年も足を踏み入れていない)


「これに触れてみなさい」


父が言うままに、その部屋に置かれている柱時計に触れる。途端、止まっていたその時計の針が動きだしてその刺激に埃が重い腰をあげて舞った。その時の、父の悲壮を映した表情に、私は底知れぬ不安を知った


「…木ノ葉に向かう。準備をするんだ」


里に向かうことなど、生まれて初めてのことで何を用意すればよいのかも分からず、母に事態を告げて手伝ってもらおうとすれば、母は泣き崩れてしまい益々混乱してしまった。一体、私はなにをしでかしてしまったのだ、とただ恐怖に慄くばかりのまま、それでも木ノ葉へと向かった先で、私は不知火ゲンマと出会う


「お前、名は」


咥えていた千本を手に持ち替えて、私を見下ろす表情からはなにも読み取れず、何故会わされたのかも分からない。そんな状況ではまともに応えることも出来ず、沈黙してしまう。そうしていると声も出ない私の代わりに父が口を開く


「この子はナマエ。まだ6歳になったばかりだ」


少し強く背中に手を添えられると、背が伸びて視線が上に向かう。私と目を合わせた後、目の前の男は黙ったまま千本を咥え父を見る。その仕草がなにを思って行われたのか、理解することは出来なかったが歓迎されていないことだけは幼くしても分かった


(もう、家には帰れないのかもしれない)


「俺は不知火ゲンマだ。よろしくな」


父になにか言いたげなそぶりは見せたものの、結局は私に差し出さしたその手は思いのほか大きく、握れば予想外に熱を帯びていた。その熱は何とも言えない安心感を与え、何故だかその時私は、この直感を信じれると確信し更にその手を強く握った。するとそれに満足したのか、ゲンマは口の端を吊り上げて意地の悪い笑みを浮かべる


「…よろしく、」


見知らぬ土地、見知らぬ人。私はどこかで期待していることに気付く。あの、どこか退屈な世界を、湿った部屋を出た先が何なのか。同時に怖くもあったけれど、この男はそれを拭える自信に満ちているような気がした。何も語りはしないのだろうが、それも悪い印象を与えることは無かった





志操なく
(そして私は父の傍を離れた)




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