04 封じ込めて
(※)無闇 の続き
「帰還命令が出てる」
「…その前にもっと言うことがあるのでは」
目を覚まして早々、視界に入ってきた男は私を冷ややかな瞳で見て言い放つ。この男がいるということはこの世界こそ本当に現実であるということでいいのだろう。体感として長い間、結界に閉じ込められていた身もやっと安心できる
「俺がここに来たってことがどういうことか分かってるのか」
「身に染みるほどには」
「分かってんならいい。俺としてはお前の後継の世話焼きまではしたくねぇからな」
一族と木ノ葉の里間の関係上なのか、上辺なのかは置いといても相変わらずな言い様だ。慣れてはいるけれど
「ダルイさんは」
「ん」
首を傾けて指した方向に顔を向けるとダルイさんはベッドから起き上がりなにが起こったのか分からない、というように呆けている。体にはそれほど影響は出ていないようだ
(良かった)
「他里の忍に死人が出なくて何よりだ」
「ゲンマ」
「お前は十二分に役割を発揮した。こっから先は上が話をつける。帰還しろ」
有無を言わさない無味の視線は、私を推し黙らせるには十分なものだ。普段ならそれで、働かなくていいと安心するはずの自分が少し不満を感じている。しかしだからといって返せる言葉もない
「あの、ちょっといいっすかね」
私の隣に眠っていたであろうダルイさんが心配し、寄り添う人間を他所に私のベッドまでやってくる。それは至極当然のことのように感じた
「…雨が止み次第、ここを出る」
多くの言葉を飲み込んでいるのだろうが、顔にしっかり出ているところはもうゲンマならば仕方のないことなのだろうか。毎度、こちらが気を揉んでいることには興味もないのか、そのままゲンマは病室を出ていく
「今回は本当にご迷惑をおかけしました」
「いや。俺も引き受けた身なんでいいっすよ。それは」
言葉に棘があるような気がするのは気のせいではないだろう。ダルイ、という人間を知っているわけでもないが、聊か似合わない態度のように思う
「…あの結界の中、どのように感じられました?」
その違和感に囚われているであろう瞳を抱えて、どこにも行けやしないと助けを求めているように見える男性を前にこの言葉は意地悪、だろうか
「ずっと、俺が俺の背中を追っているような、追われているような、」
なんつーか、と言葉を濁らせる姿は混乱を表している。それはまるで私のような錯覚を覚えて不意に泣きそうになる。忘れたはずの、見失っていればいいはずの感覚を急いで押し込める
「廻り続けるのは、結界の世界に未来を存在させることができない故に発生するものだと考えられています。ですが、そもそも、結界という区切られた世界をあんなに詳細に構築することができる人間は、」
(そう、多くはない。そう多くてはいけない)
どこまで、言葉にしていいのかが分からなくなって少しの間ができる。部屋にいる人間はダルイさんの様子を見に来た忍数人と、ダルイさん、そして私だけであり、それら全てが私の言葉を待っている。あまりの静けさに雨の音が聞こえてくると、脳裏に厚い雲のイメージが浮かんだ
「そんな事ができる人間は私たち一族の中にしかいません」
重い、世界の枷の存在が消えかかるまで、私はその重さをしかと受け止めていかねばならない。それはもう、宿命だと、そう言われながら育てられてきた。もうなにもかも自負するようになるまでに
「はぁ。それであなたが尻ぬぐいを」
「シー…!」
情けない話だ、と言わんばかりにダルイさんのそばに立っていた雲隠れの忍は私を見下ろし発言する。それは、当然の反応であろうし、私だってそう思っているからこそここまで来ている。止めに入るダルイさんの行動が似つかわしくないだけ
「いいんです。実際その通りですから。一族とは即ち血の繋がりであり、結界の構築と崩壊の関係はその血でのみ繋ぐことが出来る」
「だとすれば、何故木ノ葉はその血を随分と容易く他里に送り込むような真似をするんだ。寧ろ、厄介な結界を放っておくほうが都合がいいのではないか?」
高圧的な態度は基本的なものなのだろうか。見下げられているからかもしれないが、あまりいい印象は持てないそのシー、とかいう男性の問いは実に的確なものだ。誰もが、その疑問を抱くであろう
「今回、どのような契約が交わされて私が派遣されたかは知りません。ですが、確かに我々が木ノ葉に属していることは表している、ように思いますよね」
「そうでないなら、なんだって」
ダルイさんの表情は何を思っているのか、私の仕草を細かく追ったまま堅く表情を保ったままでいる。それはとにかく冷たい雰囲気を孕んでいる
「木ノ葉も忍里。我々の目的を理由に利用するだけのことです。事実、他里に有利に働きこそすれ、不利にはならないでしょう」
封じ込めて
(我々の存在は、全てが硝子色)
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