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02 あなたのその腕で
(※)結界崩壊少女 の続き


最初に言いたいのは、この状況は近年でも稀にみる最悪ということだ。無事に結界の場所まで辿り着けたはいいが夕日はすっかり沈んでしまっていて、必須条件となる光を完全にダルイさんの雷に依存してしまった。次に不幸だったのは雨が振り出し、足場が悪くなってきたことだった。体力が大幅に奪われていく中、私自身が結界の中に閉じ込められてしまうにはそう時間はかからなかった


(これ、どうしよう)


懐古結界、なんてのが非常に厄介なことは百も承知で挑んだわけで。別に覚悟していなかったわけではないが、そんな事実よりも困るのは元に戻れる可能性が全てダルイさんに委ねられたことだ。本来は光の満る朝に行う結界の処理。それは万が一閉じ込められたとしても抜け出すまでの時間を最大まで取れる故の手法。しかし今回はそれらの手助けは一切なく、ダルイさんの放つ雷の光が私の寿命ということになる。そして、それをダルイさんに背負わせることとなるのだ


(私にまだ意識があるってことは、ダルイさんがまだ諦めていないということ)


幸い、中に入ったことでこの結界の性質はよく理解できた。中に閉じ込める結界、というよりは攻撃型の結界であり、発動すれば結界領域を最大限にまで広げて中に入った人間を対象として死に誘う類のたちの悪いもの。だが、今回はそれが救いとなりそうだ


(今まで発動しなかった、ということは発動条件も相当凝っているんだろう。そういうマニアックな結界を張るような人間は過去そう多くはいない。加えて地域が限定されているなら、心当たりはある)


複雑な結界の陣の一部を精読した後、切断し書き換える。これがまた意外と体力を取られる作業で、極端なことを言えば、数ミリずれると結界が発動するような、繊細な作業だ。だからこそ、普段はもっと時間をかけて処理をする。今回はその限りではないが


(こんなもんだろう)


書き換えが終わると、景色などない暗闇が真下から崩れていく。結界の崩壊とともに開けた視界とともに現れるのは凄まじく鋭い光。そしてそれと共に響く耳を劈くほどの大きな音


「…はあ、ほんと、」


「ダルイ、!」


目の前でため息を吐いたかと思えばそのまま崩れるダルイさんに現実を覚えながら、声をかけようとすれば彼は勢いよく倒れていく。なにが起こっているのか分からず狼狽えれば雷影が彼に寄っていく姿を見るだけになってしまう。立ち尽くすしかない私は、ただただ、苦しそうに息をするダルイさんを眺める。しかし次の瞬間には視界を遮る雨に体が重くなって足がふらついた


(一体、何時間)


力が抜け雨を吸いきれない地面に倒れこむ。その感触が酷く気持ち悪く、しかし眩暈が視界を眩ませてくればその感覚も薄れていく。結界を破った反動は律儀にも自身に返ってくるから本当、嫌になる


「おい!」


周囲にいた人間が私の異変に気づき近寄ってはくるが、大抵はやはりダルイさんに意識を奪われている。それは当然のことだ、と思い私は意識を手放す。この雨が止む頃、私は一体どうしているのだろうとぼんやり考えながら






あなたのその腕で
(明日が来た)





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