10 薄紅
憎しみ の続き
この息苦しさにも似た沈黙を知っている
(静寂には、確かに終わりが満ちて)
充満するそれに添わせる言葉は無い
薄紅
昨日のことが頭の中を反芻して離れない。そうして現が抜けるのに反して、任務は滞りなく進む。上忍になると、任務の1つが重い。それに、少数での任務になれば尚更
(暗部は、それの比ではないだろう)
ふと、イタチの顔が浮かんでくる。そして、昨日の夜のことも、また同様に
「、」
頭に血が上る。溢れそうになる感情を鎮めて里への帰路に乗る頃には、里の全てが静かに眠りに落ちかけていた
「報告は俺が行こう。お前たちはここで解散してくれ」
部隊長の言葉に従い、里へ入るとすぐに散らばる。うちは一族の集落は入口から近く、里の端に存在するからすぐに着く。それはもう、九尾の襲来があってからの然るべき、ともいえる隔離だ
(それがうちはを奮わせた)
「どうしてこうなるかな」
孤高、鮮麗された美しい熟し、見上げられることが決まっていたかのような全てを有した一族の誇りに、木ノ葉は傷を付けた。ただでさえ、創設期からそのような傾向はあったというのに、今の状況は怒りを助長するに違いない
そうして状況だけを飲み込もうとするとうちはがこうしてクーデターを企てるのも、分からないことではないような気がしてくる。だが、うちはがそうして戦火を灯せば、里は相応の被害を被ることになるのは避けられない。そしてその時、他里からの攻撃を受ける可能性は多大にある。火種はそれこそどこにでも散らばっているのだから
「こんなところで徘徊か?」
帰って休めそうな気分でもなく、ゆっくりと歩いているのを見られていたのかと少し恥ずかしくなり、そしてそれが一族の人間だから余計に困惑する
「シスイさん、あなたこそこんなところで何を」
「俺もお前と同じようなもんだ。しかしまあ、久しぶりだな」
「外で会うのは、ですね」
会議でなら顔合わせはしているが、それはとてもこんな雰囲気で話せる場所でも機会でもない
「で、最近どうなんだ」
ぐい、と顔を近づけてくるから思わず反らす。しかもその顔には不敵な笑顔を備えているから尚のこと
「な、なにが」
「いやまあなんだ。姉妹で三角関係ってのも大変だろう。俺は駆け落ちするってなら手伝うが」
「なっ…!」
反射的に真っ赤になる顔をどうしても隠しきれず、良い切り返しも出来ず、となればますますシスイの手中に収まってしまう
「あいつは存外、本気だぞ」
お前が望むなら
にやついた表情の隙間から覗く真剣な瞳。シスイほどの瞳術使いのそれは、何もかもを見透かしているように感じる
「…それは、嘘でしかない」
誰が幸せになるか、自分は蔑ろにされるか、そんなことを考えているときの人間は、とてもまともではない。冷静でもない。イタチは、そんなことはしない
「お前はいいのか、それで」
「シスイさんがそんなこと言ってくるなんて、天地がひっくり返りそう。陰から平和を支える名もなき者、それが本当の忍だ、って言ったのは紛れもなくあなたなのに」
「お前が一族に馴染めなかった時、俺は確かにそう言った」
「それが、今の私を導いてくれた」
「…なら、もう回避することも出来ないってことだな」
「…、」
「いつかは、こうなると分かっていた。うちは一族というものを考えれば、俺たちに何が出来ようか」
イタチが兄のように慕う、このうちはシスイという男は非常に聡明で強かな人間。そしてその瞳力はイタチ以上、すなわち一族最強、と言える。そんな人が私に忍たる者の考え方を教えてくれたから、迷いながらも進んでこれた。それなのに、そんな人が弱音を吐こうとしている
「それでも私たちが忍でありたい以上、足掻くより他ないのだと、あの頃の貴方なら私にそう言って」
屈託なく笑うだろう
そう言えば目の前の彼は伏せていた瞳を一瞬、際立てて開き私を見て、それからゆるゆるとまた眼を閉じて口許を歪ませた
「お前に写輪眼が開眼しなかったことこそが、」
(俺には希望だった、と)
(彼は物憂げに告げた)
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