07 日常
※多岐に渡り 続き
繋いだ手が滑り落ちる
(異聞子となりて幾星霜)
ここには闇が降る
日常
世界はこれといって変わりなく走る。ただ、私の世界はもうすぐ終わる。それもまた変わらない
「イタチさんってば、忙しいのに」
貰った花を飾りながら姉は幸せそうに母と笑う。闇に飲み込まれそうなのは私1人。ぶくぶくと泡が落ちる
(軽薄な)
本家の子供が2人とも女、と知れた時に長女は忍道を捨てた。血の濃い、能力の高いイタチを婿に入れることが決まったその瞬間に
「本当に綺麗」
血だけは濃いから苦労せず開眼した瞳にも興味など無さそうに、私が渇望したそれを奥に引っ込めた時、私は煮え滾る感情が内にて小さく濃くなるのを感じた
(そうして私は空に落ちていく)
「ただいま、」
遠慮がちに声を出し、一瞥の視線をくれるだけの姉は今日も新しい服を買ってもらったのか、どこかで見たような着飾った女性を思い出させる
「ナマエ、あなた今日は」
「分かってる。お父さんにも今日は行くって伝えてあるから問題ないよ」
「ならいいけど」
あんたは気まぐれだから心配なの、と母は眉を下げる。どこかに走り去ってしまえるのなら、私はここ今すぐにでも
「一族の運命を左右する今、しっかりね」
姉の、姉として言うべきという考えの元に生み出された上辺だけの言葉が止めを刺す。手にしっかりと持たれた淡い橙の花が白い肌に生えて、対するかのように私の全ては傷だらけで、染められるのは赤い血しかない
(守られる人間の手は綺麗なまま)
目の前の人間たちは人を殺す感触を知らない。ざわつく心の片鱗に触れようともしない。隠され内に留まるあのドロドロとした憎しみに興味などない。傷付けられる恐怖も、痛みも、後悔も知らない
(何も知らない!)
「ナマエねぇちゃん…?」
少しの殺気にも敏感に反応したのは隣の家のサスケ。イタチの弟
「あらサスケくん、もう宿題終わったの?」
隣の家同士で子供の世話をみたりするのはありふれたことで、サスケが家に居るのも不自然じゃない。不自然なのはサスケににこにこと話しかける姉の方だ
「ナマエねぇちゃん!俺の修行に付き合ってよ!ねぇちゃんじゃなきゃ見てもらうなって兄さんが言うんだ」
それなら兄さんが付き合ってくれればいいのにって毎回言うんだけど、と忙しい兄に不満を寄せる姿は可愛らしい
(しかし、イタチがそんなことを…)
「んー、少しならいいよ」
まだ夜には少し早い。それに、気を逸らしてくれたこの子にも、そして少しは私を信じてくれているイタチにも礼をせねばなるまい
「…早く帰ってきなさいよ」
「分かってる。行こう、サスケ」
「うん!」
一気に不機嫌になった姉を尻目に家を出る。夕陽はまだ濃く家を照らし、それはイタチが姉に贈ったとされる花のようにも思えた
(もう幾分か薄かったか)
「ねーちゃん俺と組手ね!」
「あ、ちょっと急に来ないの」
「油断大敵!」
本当に嬉しそうなサスケはいつも1人で修行をしているのだろう。なにせイタチは
「遅い、もっと足上げて」
考えを巡らせるのは止める
(なにも知らないまま、終わりを迎える瞬間にも滞りなく終わるように)
(私はゆっくりと目を逸らすことを辞めなければならない)
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