05 是うもなし
※暁の空の 続き
身体に刻まれたいくつもの古傷は痛む、というよりは少し痒い。下忍になってすぐの修行で忍び込んだ演習場で死ぬかどうかの大怪我をした時の傷は、もう一生消えることはない。それを気にしているわけではないが、ただ時折、綺麗に着飾った女の人を視界に入れるとそんな考えが浮かんでくる
「次は俺!俺がやる!」
「絶対飛ばないよー」
「うっせーな、ほら!」
男の子が飛ばした紙飛行機が丘の上からゆっくりと落ちてくる。よく飛ぶものだなあ、と眺めているとカチャン、と右足に着けられたホルダーのクナイが音を立てた
(あ、そうか)
長期任務にむけての準備の途中だったことを思い出しそこから離れる。里の中では普通の光景が普通にあふれている。それが眩しくて輝いているから、つい、目を奪われる。ここに戻れば世界はしっかりと見える
(のに、)
「少しいいか、ナマエ」
そんなときに限って世界はいつも自分には微笑みかけてくれない。ただ、振り返るように促すだけだ
「…フガク様」
是うもなし
(さして意義もなく)
「一族の会議に来ないのはなぜだ」
フガク様が一族の敷地以外におられるのは珍しく、その上話しかけてくることなど無いに等しい。そうさせているのは私で、この受け答えによっては処罰を受けることもありえるということを意味する。この人ならばそれができる
「上忍に昇格してから長期任務続いておりました。申し訳ありません」
「それならそれでその旨の報告をしろ。…一族の中じゃお前を不審を感じている人間も少なくない」
それは自身が私に向ける瞳ゆえであることに誇りを持っているような振りであり、しかしながら同情のかけらも感じられる
「今が一族にとってどれほど重要な時期かはお前も分かっているだろう。このことが里に漏れれば我々は終わりだ。それは重々承知しているな」
「承知しています」
「ならいい。お前はこの里の上忍の情報を集める任を与えているはずだ。次の会議には必ず参加し報告をしろ」
足早に去っていくフガク様は私を少し振り返る。その視線は自身が一番私に不審感を抱いていると言っている様なものだ
「ならば私を処分すれば済むだろうに…」
(だから私には里から一族の監視のスパイ任務が任される)
この里が好きだ。ここにいれば、ここに戻ってくれば世界は滞りなく回っていくように感じるから、だけど、それは、なにか間違っているのだろうか
(ここはとても気持ちがいい筈だった)
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