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雨の日はそれで


雨の日の放課後は必ずと言っていいほど、財前が名前の元に現れるようになった。相変わらず覗きを続ける名前のカッパを半分借り、ぼそぼそと会話するだけの時間を財前が楽しんでいると言い切るのは無茶があるように名前は感じていたが、決して追い返すことはしなかった。そしてまた雨の日の放課後は来た


「先輩、お土産頼んますわ」


「あー…カステラ型のピアスでえぇよね」


「……」


「……」


「……」


「いや、冗談やん。引かんといてや」


「せや、先輩。アドレス教えて」


「あぁ、ええよ」


噛み合わない会話を気にはせず名前は自身の携帯電話を取り出し赤外線で財前へとアドレスを送る。財前はそれを見てポツリと呟いた


「苗字先輩て、下の名前名前言うんすね」


「それ、初めて会った時に言うたで」


「そんなん覚えてませんわ」


「……」


「名前先輩」


「何や、光」


「別に違和感ありませんね」


「そやな」


「お土産、何でもえぇっすわ」


「おん。あ、長崎の写真とか」


「却下。何安上げようとしてんすか」


「メールで添付して送ってあげるやん。ってか何でもえぇんちゃうんか」


「お土産っちゅうか報告ですやん。それ」


「あ、そう。光はそういう認識すんのやな。先輩からの写真も立派なお土産やのに、ふーん」


「まぁ、勝手にしてください」


雨が少しきつくなってきた頃、体育館裏に1人の男が現れた。傘を持ちキョロキョロとしているそれはユニフォーム姿の謙也である


「あれ、光の先輩やん」


「何で謙也さんが」


傘をさした謙也はポケットから携帯を取り出した。何だ何だと凝視していた名前を他所に財前は自らの携帯にきた振動にはぁ、と溜め息をついた


「期待外れや」


「え」


なんすか、と電話に出た財前に振り向いた名前は謙也が電話をかけた相手がすぐ隣の後輩であったことに気付くと同時に、財前が発言した通りに期待外れや、と同意した。好きな女子が居ると言って告白を断っていた謙也を見ている名前と財前がその女子を呼び出して告白するのでは、と思うのも無理はない。しかしそれにしても電話に受け答えする財前の口の悪さはどないなもんか、と名前は思う


「はぁ…ほな、すぐ行きますわ」


電話を切った後、謙也はさっさと体育館裏から消え、財前も面倒臭そうに立ち上がる。それと同時に必然的に引っ張られるカッパから落ちる滴が名前の腕にかかるのを見て財前はパッとカッパを名前に固定する。途端に自身が雨に濡れ出すことに財前は舌打ちをする


「水も滴るなんとやら、やな」


せやけど風邪ひいたあかんで、と鞄からタオルを出す名前が生真面目に財前の頭にそれを丁寧にかけ、カッパに手を通す。そのまま立ち上がる様子を見て財前は名前が帰るのであろうことを悟る


「結局、何の電話?」


「部活のミーティングの話っすわ。来い言われてんの忘れてて」


「忍足くんが呼びにくるんや」


「まぁ、今ダブルス組んでますしね」


「うわ、チームワーク悪そうやな」


「どういう意味っすか」


「さぁ」


カッパをすっぽり被って顔が見えない名前の声が、どこか遠く聞こえるのは何故なのか。財前は無意識の内にその距離感を感じ始めていた







09 END



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