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突然を装い不意をつけ


球技大会が終わってから早一週間。3年生には修学旅行という一大イベントが迫りつつあるため、浮き足だった雰囲気が蔓延しているのは否めない。そんな中で、1組にはそれとはまた違う特殊な雰囲気が蔓延していた


「えー、修学旅行の班決めやけど、苗字と千歳はおらんのか?」


「午前中は二人ともおりました」


「ほなまたサボりっちゅーことやな」


ま、ええわ。どっか適当な班に入れといたらええやろ、と言う担任の言葉に1組の生徒は心の中で安堵した。その安堵の裏には一週間前の球技大会での名前がいる。結局、準決勝では財前のクラスの女子だけでなく謙也までもを名前が1人で打ち取り勝負を決め、優勝をも決めた。その時の名前は終始表情は柔らかな笑顔であったにも関わらず拷問のような試合を展開した為、見ていた全ての人間に恐怖を与え、名前の笑顔に信頼を置いていた1組ではそれはある意味致命的なものとなり、それ以来彼女をどう扱えばいいのかを見失ってしまっていた


「ほな、まぁ好きなもん同士で決め」


担任がそう言ってHRの時間を生徒に委ねた頃、その上の屋上では名前が本を読んでいた。その少し横では千歳が熟睡している。名前に多くの人間が近寄らなくなったのに比例して、千歳は名前とよく居るようになった。とはいえお互いにそれを意識しているという事でもないので以前と比べると、という補足は必要である。元々マイペースという点で似たような二人なだけに、それには無意識の作用しか働いてはいない


「……」


ふと、名前は読んでいた本を閉じ立ち上がる。そのままフェンスまで歩いた後、暫く下を見つめてからその光景に背を向けフェンスにもたれた。それと同時にブー…と振動した携帯を開きディスプレイで電話がかかってきたのを確認してからそれに応じる


「もしもし」


『名前、今どこにおるん?』


「屋上」


『まーたサボッてんのねぇ。ま、いいわ。ちょっと待っときや』


それに名前が返事する間もなく電話が一方的に切られる。かかってきた電話の相手である小春が何故授業中に電話をかけてこれたのかを名前は不思議に思ったが考えはしなかった


「…ってか、来んの?」


その呟きに応えるように屋上の扉が勢いよく開いたことに名前は少し肩を揺らす。そこから屋上に現れたのは待っときや、と告げた通りの小春。そして小春がいる所にはこいつがいる、でお馴染みの一氏


「あらら。千歳くんもここでサボり?ってか寝顔可愛いわねん」


「小春!」


ツンツン、と自分の頬をつつく小春にキレる一氏を近くにしても全く起きる様子のない千歳に名前は凄いな、と思いながらも口にはせず小春に問いかけた


「なんでここに来れたん?授業中やろ」


「HRやからよ。今は修学旅行の班決めしとるからウチのクラスは担任おらんし自由なの」


「あー…修学旅行なぁ。長崎やっけ」


「そ。それで1つ提案やねんけど、自由時間ワイらと過ごさへん?どうせ名前は1人でふらふらする予定やったんやろ?」


別になんも考えてへんかったけど、と名前が言う前に声を張り上げたのは一氏であった


「ちょ、何言うとんのや小春!自由時間は俺と二人でラブラブデートやなかったんか!」


「ユウくんってば妄想癖きついわよー。誰もそないなこと言っとらん」


後半に本来の小春が見えたような気がしたが、敢えて何も言うまいと名前は成り行きを見守ることにした


「別にえぇやないの。ユウくんかて名前のことおもろいて言うてたし。珍しく」


一氏は小春の言葉にぐっ、と息をつまらせる。女は傲慢で、感情の起伏が激しい、面倒という偏見が強い一氏はどうやらそれとはまた違う雰囲気を持つ女の名前を確かにおもしろいと感じた。そしてそれを小春にも告げた。しかし一氏にとってそれはまさかこんな時に出されるものでは無かった為、思わずたじろいでしまったのだ


「ま、ユウくんの意見なんか反映せんけどね。名前もそれでえぇやろ?」


にこにこと笑う小春に名前は何を思う訳でもなく、ただ頷いた。後にはなんでやー!と嘆く一氏が見られるだけであった









08 END



あきゅろす。
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