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素知らぬ振舞いを手に


「小春!」


「ユウくんっ」


互いの名を呼ぶことでタイミングを取っているらしく、外野の小春と内野の一氏は最後の1人を打ち取った。ピピ、と終了の笛が鳴ると共に主に8組の生徒からワアワアと喜びの声が聞こえる。一応1組の声援も聞こえているが、別に名前や千歳が活躍している訳ではないので微妙だ


「よっしゃ!これでベスト4やでっ」


「ユウくんのコントロールがえぇんよぉー」


ベタベタとしている二人は長年ダブルスを組んでいるだけあってチームワークが良い。ボールが2個のドッジボールであるため、そのボールが2人に渡ると最早敵無し状態である。そう、名前や千歳が邪魔になってしまう程に


「はー…何もしちょらんけどよかと?」


「ええんちゃう。楽しそうやし」


名前は興味なさげに頭を掻いてそっぽを向いた。彼女が球技大会自体にやる気がないのは言うまでもないが、それにしては違和感のある反応である。だがそれを名前自身自覚しているのかは微妙なところで、そんな些細なものは周囲からすれば分かる筈もないことだった


「おーおー見てみぃ。次の相手は手強いで」


名前、千歳、小春と一氏が準決勝のコートに着くと、ここまで勝ち進んできたことに気を良くしているのかテンション高めの相手の男が含み笑いで名前たちを見て言った。それにいち早く反応したのは名前たちのチームをいつの間にか引っ張っている一氏だった


「おどれも運命競技やったか…謙也!」


「いやーん。謙也くんと戦うなんてむ・り」


ピタッと謙也にくっつく小春に一氏は浮気か!と叫び謙也から小春を引き離す。それは最早テニス部では見慣れた光景で千歳はふんわりと笑って遠巻きに見ている。それを見て名前もまたそれを遠巻きに見ることに決めた。というか流石に準決勝ともなるとギャラリーが多く、また人気のテニス部の日常が見れるということもあり起きている女子の密かな歓声に自分が何らかの影響を与えるのはよろしくないだろうと確信していたのが実際のところであった、が


「先輩ら、きもい……って、苗字先輩?」


「あ、財前」


お互い千歳に隠れて見えなかった姿を確認し合う名前と財前にギャアギャアと騒いでいた面々が声を失う。財前の性格上、そう気軽に話し掛ける相手は少なく、またそれが女子でしかも学年が違うとなれば先輩という立場の男共がその詳細を知りたくなるのは当然であろう。名前はそう思いながら、しかしその切っ掛けが自身の覗きであるというくだらなさにどうしたものかと心の中で溜め息をついた


「財前くんの知り合いなん?」


ヒョコ、とどこから出てきたのか小柄な女の子が親しげに財前に近付く。彼女は財前のクラスの運命競技のもう1人の出場者で、確かバレー部のレギュラーでセッターしっとったな、と名前は冷静に判断しその子に対してまぁ、と曖昧に返事する財前を見て状況を理解した


「付き合ってたりするんですか?」


「な、財前に彼女とかあり得ん!きっしょ!」


バレー部の女の子の質問に名前が答える前に話を聞いていた謙也が全身で身震いをする。名前はそれを見て大分嫌われてんなぁ、と財前を揶揄するように言ったが財前は好かれる方がきもいっすわ、と平然と毒を吐いた


「もし財前と付き合うてたら、せやなぁ…自分みたいな可愛い子を近付けさせへんわ。絶対」


財前に気があるみたいやしな、と耳元で淡々と呟く名前にバレー部の女の子は小さく頬をひきつらせた。何らかの牽制をするつもりで会話に入ってきた彼女は予想外の先制を受けたことに言葉を失い、黙り込む


「なんてな。嘘や嘘、財前とは付き合っとらんもん」


ケラケラと軽く笑う名前にその場に居た財前は呆れたように笑い、それを見た謙也たちは物珍しいものを見たようにそんな財前を見た


「いらんことばっか喋ってんと、はよ始め」


多くのギャラリーに囲まれる中、そう言って準決勝の開始を持ち運んできたのは3年2組の応援に来ていたテニス部の部長、白石蔵ノ介であった











06 END



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