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控える先を暗示して


球技大会を明日に控えた昼休み、以前名前に登録種目の確認をしてきた女子が名前に声を掛けた


「ちょっと、ええかな」


「あぁ、うん」


「実はまだ千歳くんに言えとらんねん。運命競技のこと…せやけど今日は体育委員会で言いにいけへんねん…それで、その苗字さんから千歳くんに運命競技のこと言うてもらえへんかな」


その子がチラ、と空席の千歳くんの席を見てすまなそうに言う。彼女も彼女で体育委員が急がしいのだろう、と名前は端から見れば快くその願いを聞き入れた。しかし実際は面倒なことだ、と名前は思いながら教室を出た。今まで千歳との間に直接的な出来事や行事が無かった為、こうして探索に出ても彼がどこに居るのかは分からない。名前は暫く考えてから望みは薄いが、唯一のテニス部との繋がりである後輩に尋ねてみることにした


「財前、ちょっと起きいや」


ペシペシ、と机に突っ伏して寝ている財前の頭を無遠慮に叩く名前は何がスイッチになったのか、財前が起きても尚ケラケラと叩き続ける。寝起きでイラッときた財前が低い声で牽制するその様子に2年7組の生徒は冷や汗をかく。しかし名前はそれすらも楽しそうにわしゃわしゃと財前の髪を掻き乱した


「な、んすか…!」


強制的に名前の手を自分から遠ざける財前に彼女はそうやった、と笑うのを止め当初の予定通りに質問を投げ掛けた


「千歳くんの居場所知らん?」


「教室におらんのっすか」


「おったらわざわざここまで来おへんわ。せやけど部活には出たはんのやろ?校内のどっかでサボッとんのは確実やねんけどなー…」


「明日の運命競技の打ち合わせっすか?」


「いや、あれは打ち合わせしたところでどうにもならんやろ。せやのうてまだ千歳くん自分が運命競技出るん知らんねん。流石に言っとかんと当日困るやろ?千歳くん、競技せんとどっか行きそうやし」


「せやけど、あの人たっぱあるし屋根とか登って寝とったりもしますしね。何処が居場所とかはないと思いますわ」


どこか投げ槍な言い方のような気もしたが、財前なりにきちんとした受け答えをしているのは名前にも分かったのでそうか、としか言えず名前は時計を見て少し考えてからポケットに手を突っ込んだ


「自分、甘いの大丈夫?」


「まぁ」


「ほなこれあげるわ。ありがとうな」


ポケットからキューブ型の飴を出して財前の机の上にそれを並べた後名前は満足げに財前の元を後にした。財前は結局どうするんやろ、と少し疑問に思いながらもその飴を口の中に入れ再び机に突っ伏した。名前はというと午後の授業をサボることを決め徹底的に千歳千里を見つけ出してみよう、と決心して取り敢えず屋上に来ていた。予鈴が鳴った時点で屋上で昼休みを過ごしていた生徒が出ていくのを横目に財前の言葉を思い出す


“屋根とか登って寝とったりもしますしね”


「登ったりするんやったら、貯水槽の上とかにおったりして…」


ブツブツ呟きながら半信半疑で貯水槽の梯子を登ってみる。いて欲しいと思ってはいても本当にいられるとこれもまた困るな、と実感しながら名前は貯水槽の上で眠っている千歳に声を掛けた


「千歳くん」


「……んー?」


起こされた、というよりは夢の延長というように千歳は目を閉じたまま言葉を発する。それに対して名前もまた違和感を持つことなく、あるいは持ったところでどうする術もなく、言葉を続ける


「明日の球技大会についてお知らせが1つあります」


自分でも意識して穏やかに囁くように発した言葉に千歳は微かに反応を示し、片目を開けて名前を見た。名前もまたそんな千歳をじっと見る


「…苗字さんたいね」


「うん。知っとったんやな」


「たまに授業サボッとる」


「千歳くんほどやないよ」


「やけん、俺が授業に出とる時によぉおらん気がすったい」


「じゃ、今回は一緒の時間にサボリやね」


「もう授業始まっとっとや?」


肯定すべきか、否定すべきかを名前が悩んでいる内に本鈴が鳴って名前は今始まったで、と笑う。千歳も特に気にした様子はなく欠伸をしている。体制は変えず


「それで話戻んねんけど、千歳くん明日の球技大会は運命競技に登録されとるからな」


「運命競技?」


おいおい、運命競技知らんて四天宝寺の生徒ちゃうで、と名前は口走りそうになってそう言えば千歳くんは転校してきたんやったとその言葉を呑み込んだ


「運命競技言うんはな……」









04 END



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