剥がれないように配慮
名前は覗き、以外に関しては持続性がないようで授業中は気だるそうにしていたり寝ていることなんかはざら、サボることもある。だがサボることにすら飽きを覚えることがあるのか、生真面目に授業を受けていることもある。そのマイペースからクラスメイトは皆、名前に関しては一定の距離を置いている。だがそれは一線を引くというものではなく、またそれは名前の雰囲気からそうさせるというのもあるのだが、時と場合によっては気軽に話し掛けることに抵抗を与えない、そんな距離であった
「苗字さん」
それを示唆するように声を掛けてきたクラスの女子に名前は機嫌良さげに微笑んで応えた。それにほっとしたのか、女子は懐から一枚のプリントを取り出す。名前はそれを見て思い当たる節があるように頷いてペンを取り出し形の悪い丸を１つつけた
「あ、ほんまに運命競技でえぇん？」
「ええよ。元々種目決めるHRサボッたウチが悪いんやし」
球技大会事態どうでもえぇしな、と内心ぼやきながら相変わらず笑顔を振り撒く名前に気を許したのか、その女子は球技大会の種目登録の紙を見て思い立ったように口を開いた
「せや、千歳くん知らん？千歳くんもこれ決める時におらんかってな、運命競技なんやけど確認の丸欲しいねん」
「千歳くん？さぁ、分からへんわ」
千歳、とは名前と同じクラスのテニス部で放浪癖のあることで有名である。彼もまた１組では名前と同じような扱いを受けており、どうやら同じ状況で同じ競技に決定したようだった。名前も千歳程ではないが授業をサボることがあるので居場所を知っているのではないか、と思われたらしい。名前はそれも当然だと思ったのか興味もないのか本心から知らないと答えた
「そっか。ほな、球技大会ぼちぼちいこな」
そう言って去っていく女子を横目に名前は優勝しよな、ではないのが１組らしい…と思っていた。本当に校長とかそこらへんの人らが１組にはゆったりした天然ボケっぽいのを集めたんちゃうやろか、と。それに対していうと２組、隣のクラスはツッコミが多い。体育なんかは隣のクラスと一緒やから、これでお笑い力のバランスを保ってるんやと思われる。あの校長ならしそうや
(そないなことより、今日は雨か)
今でこそ雨はまだ降っていないものの雲は厚くどんよりとしているのは確かで、名前は放課後に体育館裏に行くかどうか悩む。しかし毎日の日課になっている行事を怠るのは気分が悪く、また毎日続ける理由もあるのでやはり行くことに決めた。毎日、体育館裏に潜んでいるからといって毎回告白が起きる訳ではない。ましてや雨の日など告白現場に出くわす確率は更に低いのだが、そんな日だからこそ何かが起こるのではと思い始めると、どうしても足をそちらへ向かせずにはいられないようであった。１日のカリキュラムが終わると名前は慣れた身のこなしでいつもの場所に身を潜め持参した地味なカッパを装着する。その日、案の定とでも言うべきか、そこにピンクの傘を持った女子が１人現れた
「先輩…こんな日も覗きっすか」
疎らに降り始めた雨を気にかける様子もなく、いつかと同じように財前は不意をつくように名前の横に現れた。ただ違う点は、それに少し狼狽したように財前を見る名前。財前はそれが気になったのかどうしたんすか？と淡々と聞く
「いや、部活やろ？自分」
せやから来る思ってへんかってびびった、といつもの様に笑う名前に財前は納得はしてないものの追求する気も無かったので今日は雨で中止なったんすわ、と呟く
「ほんで？財前がここに来るっちゅーことはテニス部の先輩の誰かが来んの？」
「多分。まぁ、うまいことそういうん隠す人やから確信はないんすけどね」
財前は口ではそう言ったが確信していなければこんな雨の中にわざわざ来ないであろうことは名前も悟っていた。そない先輩の弱味でも握りたいんやろか、と思いその後嫌な奴やな、とも思ったがそれは自分の方もだと思いその感情を消した。暫くすると現れたのは確かにテニス部の、しかも顔見知りといえば顔見知りの男で名前は感心したように声を漏らした
「千歳くんて、授業には来んでも呼び出しは来るんやな」
「そういえば苗字先輩って、千歳先輩と同じクラスっすよね」
「そやねん。しかも今度の球技大会千歳くんと一緒の運命競技やねん」
「まじっすか。俺も運命競技っすわ」
お互い押し付けられたな、と名前はヒソヒソと話す。だが押し付けられたと言っても名前のクラスでは運命競技は避けられる競技となっており、財前のクラスでは期待される競技となっていることで違う意味でな、と心に思う名前を知ってか知らずか財前はめんどいだけですよ、と酷くなった雨から逃れるように名前のカッパを無断で半分自分の上に引き寄せた
03 END
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