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見極める瞳を見つめる


春という季節が実際に実感できる時期というのはいつ頃を言うのか。名前はそんなことを考えながら肩肘を机に置きうとうととしていた。今が昼休みであるということも、昼食を食べるということも全くもって気付いていない様子である。そんな名前の意識を覚ましたのは、窓の外に見えた明らかにそわそわと体育館裏へと向かう男の姿であった


(これは、覗き歴半年のウチの勘からして呼び出されたな)


先程までの退屈を身体で表現していた様子から一変してさながら水を得た魚のように教室を飛び出ていく名前をクラスメイトは特に気にもしていないようである。名前が告白現場の覗きを始めてからこれはよく見られる光景だったが、クラスメイトは彼女が何処へ行き何をしているかは知らない。名前は軽やかに慣れた動きで覗きポイントに身を潜めた。告白は既に始まっていて、後は男の方の返事を待つだけ


「ほんまええ趣味してますね、苗字先輩」


自身の耳元で不意に囁かれたと言うのに名前は分かっていたかのようにひっそりと笑って声の主である財前の頭を屈ませた。名前は見つかる、と咎めるような言葉を発したが、威圧感があまり感じられないのは彼女が終始笑っているからであろう。財前も財前でそれについてはどうでもいいらしく、話題を前方の二人に持っていった


「謙也さんが告白されとるなんて、天地ひっくり返りますわ」


声の一本調子から本心であろう財前の言葉には明らかに揶揄する気持ちが込められており、それが彼を覗きという行動に移させたのもまた明らかであった。名前は小さな手帳を取り出しスラスラとデータを書き込んでいく。忍足謙也、と告白された側の名前を先に書いた後、告白した側の女子の名前も迷いもなく書いていく名前に財前は自然と浮かぶ質問もぶつける


「先輩、よぉ人の名前知っとるんすね。俺のことも知っとったし」


「いつでもアンテナ立てといたらこの学校の殆んどは把握できんで。意外と」


ちゅーかテニス部はよぉ噂されとるから知ってて当然や、と吐き捨てるように言った名前に財前は返事をしなかった。それよりも自分の部活の先輩が慣れないことにあたふたしているのを見るのが楽しくて仕方がないらしく、前方の光景を心底愉快そうに覗いている


「忍足謙也、女を振ったで」


「え、謙也さんは別に何も言うとらんですやん」


「読唇術や。今“堪忍な、俺いま好きな奴おんねん”ってめっちゃ小さい声で言いよったからな」


淑乃の発言に財前は引いたのか静かになった。彼の性格上感心することはあり得ないだろう。名前はそんな様子の財前を当然のように無視し、断った罪悪感からか女の方が去っても動く様子が無い謙也を凝視している


「ああなったら動きませんよ、謙也さんヘタレっすから」


「ふーん。ヘタレっちゅーのはほんまなんやな。はは、おもろ」


財前の勧告を心から受けとめる訳ではなくやはり謙也を見続ける名前を他所に財前は財前で満足したのかフラりと消えた。それでも名前は謙也の項垂れている姿を昼休みが終わるまで見続けた。本当は財前の時のように話し掛けることも考えたが、謙也は覗きをされていた事を知ると、こういう方面では、憤怒する側の一般的な人種であることは一目で理解できたので、やはりただ覗きを貫徹するだけに留めた










02 END



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