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夏は期末試験の後に3


「せやからそこは…」


「あ、そうか」


時計が時を刻む音が部屋の中に聞こえる程静かになった金色家には、予定通り小春と名前が数学を勉強している。間に一氏を挟んで


「…ユウジ、えぇ加減にせんと邪魔やで」


「うっさいわ!俺は小春の隣におるだけやっちゅーねん!」


「ちょっとユウくんっ…金太郎はんが起きてまう」


リビングでソファーに座り本を読んでいた白石は、どう考えても勉強の邪魔にしかなっていない一氏に溜め息をつく。それが癪に触ったらしく一氏は静かに貯めていた怒りを白石にぶつけた。その声に白石の横で眠っていた金太郎は少し身体を動かしたものの、結局は起きずにまた定期的な呼吸を繰り返す。現在の金色家には寝てしまった金太郎と、その世話を引き受けた白石、小春と一心同体修行中の一氏、そして名前が居る。その他の面々はたこ焼きを食べた後に帰った


「大体こない近いと暑いわよ。クーラーつけとっても」


お願いやからこっちに座っとって、と名前とは反対側の自分の隣を指差す小春に一氏は渋々頷いきそれに従った。名前も暑かったら暑い言わな、と小春は言うが言われた本人はそれほど暑そうな様子でもなくおん、と言ったものの目の前の問題に集中している


「なぁ、これってさっきの公式使って解くん?」


「うーん、それやったらもう少し簡単なカタチに直した方がえぇやろね」


「簡単なカタチ…こうか」


小春が言わんとすることを察する名前も決して頭が悪い訳ではない。それ故に二人の勉強は効率が良く回転も速いのでハタから見ていると気持ちがいいものがある。それが気にくわへんのは分からんこともないわ、と白石はギリギリと小春の隣で歯軋りをしている一氏を見てから再び本に意識をおとした


「んー、全部あっとる。今回の範囲はこれで大丈夫そやね」


「せや、な。ありがと」


時計の針が7時を指す頃、ひたすら集中していた名前が腕を伸ばしシャーペンを手放した。それを待ってましたと言わんばかりに一氏が小春の腕にしがみつくので、小春が心底嫌そうな顔をしたのを見てしまった名前は何となく目を反らした。見てはいけなかった、と


「ほなウチは帰るわ。毎回ありがとうな」


「えぇわよ。名前とやっとったらえぇ復習になるし。それに今日はたこ焼きのこともあるしね」


「はよ帰れ」


ユウくん、と素の小春の声に静止する一氏を尻目に名前は鞄を持って白石と視線を合わせた


「送ってこか?遅いし」


「大丈夫。今日チャリで来たし、こっから5分で帰れるし。ってかまだ明るいし」


「そか。ほな今日はたこ焼きごちそうさま」


「うん。また明日」


金太郎くんにもよろしく言っといて、と寝ている金太郎に視線をおとした後名前はリビングを出た。そのまま靴を履いて玄関をの扉を開けたその時だった


「あれ、光やん」


「先輩ナイスタイミングっすわ。台所に携帯忘れたんで取ってきてもらえません?」


俺、運動靴やし脱ぐんめんどいんで、とビーサンの名前に言う財前に分かった、と素直に台所に向かう名前は携帯を見つけ再び玄関へと戻りそれを財前に渡す


「どうも」


「携帯忘れるとか、案外抜けてんなぁ」


「なんかそれ先輩には言われたない」


「なんや否定できひんのが悔しいわ」


「ねぇ先輩」


「ん」


「知らん間に先輩らと仲ようなってますね」


「先輩、先輩言い過ぎでよぉ分からんことなっとる。ってか荷台に乗られると困るんやけど」


不満を言いつつも自転車を漕ぎだす名前は自分の家の方向へ向かいながら財前にこっちでえぇの?と聞く。それにそっけなく財前はえぇです、と言って話題を元に戻した


「釣りとか」


「あぁ。修学旅行で行ったんよ。小春経由でなんとなく一緒に」


「最近謙也さんがうっさいんすわ。苗字はいい奴やな、とか。正味、俺に言われても困るんですけど」


「それはウチに言われても困る。正直、忍足くんの勘違いやと思うわ」


「正体は覗き魔っすもんね」


「うん。なんや響き悪いしやめて。そっちの覗きやないし」


変わらん、と呟く財前を荷台に乗せ自転車を漕ぎ進める名前はふと思い出したようにこんまま乗っといてな、と言って自分家の前で自転車を降りた


「さっきの信号右やったんすけど」


「ええからちょっと待っといて」


自分の家に入っていった名前の背中から家に視線を移した財前は誰に聞こえさせる訳でもなく普通やな、と呟いた。これといって想像をしていた訳ではないのだが、変わり者の名前の家が普通すぎてつまらないと思ったのは確かのようである。暫くして出てきた名前は忘れてたわ、と財前に修学旅行先の長崎で購入したビードロを渡した


「なんかガラスの笛らしいで。ペコペコ鳴るんやて」


「はぁ…実用性ゼロっすね」


「それはウチも思った。まぁ、お土産ってそんなもんやろ」


「それもそうっすね。ほな大人しく貰っときますわ」


「おん。ほなな、光」


そう言って暑いから、と家から持ってきたアイスを渡してくる名前に軽く頭を下げて財前はそのアイス片手に夕焼けの街を歩き出した







17 END



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