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比較的滅入るような昼下がり


苦手ではない。だがあまりにもしつこいと人はそれを嫌いになってしまうものではないだろうか。ましてや名前のような持続性のない性格の者では、それは当然なのではないだろうか


「も、やめて……」


「えぇやん!乗り放題やねんからもう一回行こうやっ」


修学旅行最終日、長崎からバスで移動して福岡のスペースワールドに来た四天中生はフリーパスを貰い平日のランドというものを満喫していた。特に気分でもない名前は1人で自然と人気のない所をウロウロしていたのだが


「あと一回だけやから!いこーやぁ!」


気が付けば高城とジェットコースターを5回も乗っていたのである。その上高城はもう一度とまるで小学生のように無理強いをしてくるので、名前は酔いと戦いながらその勢いとも戦わなければならなくなっていた


「高城さん、いつも一緒にいる友達と行ってきた方がえぇんちゃう。ってか高城さんのこと探したはるかも」


「うちがジェットコースター狂なん知っとるから逃げよったんよ。それより行こ!」


「、私も逃げたい…」


「え?なんやて?」


抵抗という抵抗も出来ずにまた列に並びに行こうとする高城にいいようにされる名前は視界の隅に適材とも言えよう人物を見つけて自分を奮い立たせた。今、あの人にこの位置を渡せればうちは生き残れる、と


「忍足くん……昨日の罰ゲーム、今使うで…」


どこ行くん、と慌てて追ってくる高城を振り払うように走り目立つ頭と背丈を持った男の腕を掴む名前の必死さたるや、さぞ珍しいものであったのであろう。腕を掴まれた謙也は驚きと好奇の瞳で名前を見つめている


「もう、苗字さん足速い…って謙也やん」


「た、高城?なんでお前と苗字が」


「そんなんえぇから…今から高城さんの気が済むまでジェットコースターに付き合ってあげて」


それやったらえぇやろ、と名前が高城に振り返ると高城はその手があったかー!謙也ってスピード狂やったもんなっ、と謙也の意見は聞かず謙也を連れて行った。謙也はというと突然のことに頭がついていかないのか、名前に何か言いたげに、けれど結局何も言わず高城に連れていかれた


「…はぁ」


普段の名前ならば目立つ所で座りこんだりはしないのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。ずるずるとその場に座りこみ、恐怖と興奮の入り交じった悲鳴が聞こえるその場で回復を待つことにした


「おい、お前…」


不意にかけられた声が自分にだと気付いてはいる。しかし振り向くという行為はまだ負荷が大きく、正直にいうならばそっとしておいて欲しかったと思いながら名前は葛藤を越えてその呼び掛けに振り向いた


「一氏、くん…どないしたん?」


「小春がどっか行ってしもたから探してるんや…ってお前こそどないしてん。顔面オバQやぞ」


「せめて、真っ白って言うて…」


一氏は名前に声を掛けたものの、性格からして人見知りが激しく女への対応に関しての知識は皆無に等しかったのでどうすることも出来ずに立ち尽くしてしまう。名前は名前で何らかのフォローを入れなければと思いつつもその体力がない。そこに現れたのはこの状況では一氏とは正反対の性格を持つ白石であった。彼は両手に持っていたソフトクリームを黙って一氏に渡すとそっと名前の腰と肩を支えて立たせた後、ゆっくりとベンチまで歩かせ座らせた


「何か飲むか?」


「…水、」


「おん。ちょっと待っとき。ユウジ、苗字さん見とってや」


軽やかに走っていく白石の背中を暫く見ていた一氏はベンチに座る名前の視線が自分に向いているのに気付いて、どうすればいいのか困り果てた結果白石から預かったソフトクリームを食べた


「何で食べたん…訳分からん」


「溶けるよりマシやろ。それよりアイツ、なんで2個もソフトクリーム買っとんねん」


どこか安心したように笑う名前に一氏は何か釈然としないものを感じながらも、自分が喋っていればまだ空気はマシだろうと悟り喋る。だがそれには無茶はなく、一氏の素っ気なさを反映したような言葉に名前は自然であれる自分を感じ、また身体の回復を感じる


「さっき、忍足くんがおったから…あれは忍足くんに買ってきはったんやと思う。うち、それ知らんと謙也くんに昨日の罰ゲーム言うて、ジェットコースター乗ってこい、って無理矢理行かせたから…」


「あぁ、昨日の釣りの罰ゲームか。せやけど謙也はジェットコースターとかめっちゃ好きやろ。罰ゲームにならへんわ」


本当は高城とのやり取りも言わなければこの状況は伝わりきらないのは分かっていたが、今はそれを話に入れるとややこしい気がして名前ははしょる。結果、一氏にそうなん?と生返事をするだけになって会話が途切れてしまった。名前はこの状況に一氏が困っているのを分かっていたし、感じていたので傍に居てくれていることが嬉しかった


「一氏くん、ありがとうな…」


水を持ってきた白石の代わりに小春を再び探しに行くと言った自分にお礼を言う名前に、やはり釈然としないものを感じて結局何も言えずその場を去った一氏を見送った後、名前は白石に礼を言って水を飲んだ。ふぅ、と息を吐けば心持ちマシになったような気がして名前は声の調子をあげた


「ありがとう、マシになった」


「えぇよ。ところで、自分の居ったところに謙也おらんかった?」


「あー…実は」


名前は簡潔に今までの出来事を白石に話した。高城というキーワードに何らかの反応を示すかと思いきや白石は一切表情を変えず、昨日の釣りで謙也と千歳が最下位やったからな、ちゅーか俺らが勝てたん今更やけど凄いな、とか言って笑うので名前は少し拍子抜けした。しかし、実際のところこの人は忍足くんの高城さんへの気持ちも知ってるんやろう、とどこかで確信していた







14 END



あきゅろす。
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