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知らぬが仏と言うものの


何を考える訳でもなくただぼんやりしてた、なんて表現を使うんは実際のところかなり稀やと思う。何を考える訳でもなく、なんて時点で実は色んなこと考えてんのが現実やろう。言葉って不便。そんなんでほんまに気持ちなんて伝わるんやろか。名前は体育館裏で行われている告白を覗きながらふとそんな事を疑問に抱いた


「ああいう感じの告白されて、困らへんの?」


名前は四天宝寺中の告白スポットである体育館裏にひっそりと身を潜め毎日のように放課後、そこで他人の告白を覗いていた。それに罪悪感というものが湧くということは自身曰く無いらしく、ただただ面白いらしい。そして彼女はとうとう身を潜めるという唯一の防御壁を自ら取り除いてしまった。興味本位で


「そら、いきなり言われても相手のことよぉ知らんかったら好きや、言われても…ってなりますけど」


「ふーん。そんなもんか」


とうとう告白されていたある男に話し掛けた。勿論呼び出した女の子の告白が全て終わり去った後に


「覗きっすか」


「ウチの事は気にせんでえぇよ。然るべき日に備えてどんな告白の仕方がえぇか研究しとるだけやから」


「それにしては覗き歴長いんちゃいます?」


確かにかれこれ半年はこないなこと続けとるけど…と名前は思った後に覚醒したように思考をめぐらせこの目の前にいる後輩が自分の存在をとうに気付いていた事を悟った


「いつから気付いとったんや。財前光くん」


自分で分かっているのか、それとも無意識なのか名前は楽しそうにというよりも嬉しそうに財前に質問を投げ掛けた。それに対し財前は何ら動じることなく呟く


「俺、ここにはよぉ来てますからね」


他意はなく、また自身が意図している訳でもないことが財前に溜め息を与える。その様子が気に入ったのか名前は喉を鳴らしクツクツ笑った後、至極嬉しそうにスカートのポケットから小さな手帳を取り出した


「残念やなぁ。一番は白石くんやで」


君は2番目や、と名前が言うと財前はその部分に対して心底興味が無さそうにそうっすか、とポケットに手を突っ込んだ


「それより、部長が二つ返事した人はおったんすか?」


「今んとこおらんなぁ。皆めっちゃ可愛いかったんやけど」


そこにはまた興味が無かったのか欠伸をした財前を名前はじっと見つめる。どんな告白はグッときた?と質問しようかと考えていたのだが、この目の前にいる財前は今までのどの告白も断っている為、あまり参考にはならないであろうと思い躊躇っていたのだ。その間に財前は思いつくままにそういえばあんた、誰なんすか?とこれまた退屈そうに聞くから名前もまたどうでも良さげに溜め息交じりに言葉を吐いた


「3年1組の苗字名前」


よろしく、と言う代わりに今後も覗いてんすか、と問う財前に名前は勿論や!と満面の笑みで答えてその場を後にした







01 END



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