書いたもの/VOCALOID
07
壊れてしまえばいいと思った。
今目を閉じたら、もう開けなくて済むのなら、それで。
この作りものの声帯も、
この作りものの心臓も
もう必要ないのだ。これっきり。
私は、歌う理由を失った。
私のマスターはこの人だけ、この人だけだ。
もう誰のものにもならない。
誰の命令も私は聞かない。
「やめて、離して!!」
掴まれた両腕を振りほどいて、ヘッドフォンを引き剥がして、
自由になった指先を首筋に沿わせて。
当たりをつけた一カ所を、私は渾身の力を込めて、押した。
内側からばらばらにされるような衝撃がすぐに襲う。マイクの干渉音のような、ぱんっという重い破裂音が耳元ではじけて、届く音がノイズに変わる。
モノクロの砂嵐に飲み込まれるように、身体の感覚が奪われていく。
…私は密かにこのことを知った。
いつもヘッドフォンの影になる場所。
人ならば、耳下のリンパ節にあたる部分
【VOCALOIDが正常に稼働するのに必要不可欠なパーツや駆動系は、その周囲に配置されており、圧迫によるショートが最も起こりやすい部位である。】
【強い衝撃を加えると、破損部位を中心として高圧電流が流れて、人工声帯をはじめとして影響はボディ全体に及ぶ。メモリにも接触障害をもたらし、初期化を余儀なくされる場合も多い】と。
私を作った人たちは、確かにそう話していた
思いがけず私は、それを耳にしていた。
ごめんなさい、
ごめんなさい、
こんなことする私は、悪い子です。
そしてとても弱くて
だけどこうするしか なかった
苦しいから、苦しくて仕方ないから
こんなに苦しいなら、心なんていらないって
そう思ってしまったのです。
許して下さい。
私は、VOCALOIDで
マスターとは、違った。
同じ場所に行くことができない代わりに
こうすることしか出来なかった。
ごめんね、マスター。
私のこと、選んでくれてありがとう。
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10/09/26
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