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事の起こり。
それはいーたんの腕を掴んだことだった。
食事を運んでる最中、足をもつれさせたいーたん。腕をとっさに掴んだ。

あ、腕細い、なんて認識するのと同じぐらいにいーたんの持っていたお盆ががしゃんと、万有引力の法則に則って落下した。

支えていたものがなくなったからだ。
音に驚いてお盆に眼を取られ、すぐにいーたんをみると、

死体かっていうほど、真っ青だった。

「え?」
「あ」
「だいじょう「あ、あ、あああ あ」

目線はこっちを向いているが、多分俺を捉えてはいない。
大丈夫じゃないことがわかって、腕を離すとお盆と同様、支えがなくなって床にへたり込むいーたん。
声をかけても返事はないし、肩を揺さぶっても血の気のない顔がぐらぐら揺れるだけ。息が荒い。
救急車呼んだ方が、と思った時、蚊の鳴くような声で音を洩らした。

「く」 「な」

2文字聞けばわかる。直ぐにいーたんの携帯から青いのに連絡を取った。
こんな時でも、俺の名前が出ないことに悔しくなった。


「うっにー、遂にばれちゃったねえ」
「つか、こんなことに今まで気付かなかったことにびっくりだ」
「いーちゃん、うまく隠してたんだね」
「で、俺はこれはどういうことだとお前に聞いてもいいのか?」
「そうだなあ……うーん詳細はいーちゃんから聞きなよ。きっと零ちゃんなら話してくれると思うし。僕様ちゃんは、結果だけ言うよ」

結果とは。
つまり現在の状況。

「いーちゃんは色々あって、結果的に、人に触られると拒絶反応起こすようになっちゃった。」
「拒絶反応……」

人に触れられると。
そもそも、触られないで生きていくことなんてできるのか?

「もちろん条件みたいのはあるんだよ。触られるのは駄目だけど、ぶつかるのは大丈夫とか。零ちゃん、いーちゃんのどこに触った?」
「腕。二の腕だ。転びそうになったのを見てとっさに掴んだんだ」
「掴んだ。しかも二の腕。しかたないよね。うにー、でもそれは触られるよりひどいかもねー……どんなふうになった?」
「持ってたお盆落として、真っ青になって、立てなくなった。話しかけても反応しないし、動かなくなった。」
「んん。その程度なら軽い方だよん。触られ方とか、触られた場所によっては気絶する」
絶句する俺に青いのは続ける。
「僕様ちゃんは昔から触ってるけど、い―ちゃんは未だにちょっとフリーズしちゃうみたいだし。すぐ治るけど……うに、あとは本人から聞いた方が早いんだよ」

ちょうど良くドアが開く音がして、コードだらけの床がぎっと鳴った。





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