2 事の起こり。 それはいーたんの腕を掴んだことだった。 食事を運んでる最中、足をもつれさせたいーたん。腕をとっさに掴んだ。 あ、腕細い、なんて認識するのと同じぐらいにいーたんの持っていたお盆ががしゃんと、万有引力の法則に則って落下した。 支えていたものがなくなったからだ。 音に驚いてお盆に眼を取られ、すぐにいーたんをみると、 死体かっていうほど、真っ青だった。 「え?」 「あ」 「だいじょう「あ、あ、あああ あ」 目線はこっちを向いているが、多分俺を捉えてはいない。 大丈夫じゃないことがわかって、腕を離すとお盆と同様、支えがなくなって床にへたり込むいーたん。 声をかけても返事はないし、肩を揺さぶっても血の気のない顔がぐらぐら揺れるだけ。息が荒い。 救急車呼んだ方が、と思った時、蚊の鳴くような声で音を洩らした。 「く」 「な」 2文字聞けばわかる。直ぐにいーたんの携帯から青いのに連絡を取った。 こんな時でも、俺の名前が出ないことに悔しくなった。 「うっにー、遂にばれちゃったねえ」 「つか、こんなことに今まで気付かなかったことにびっくりだ」 「いーちゃん、うまく隠してたんだね」 「で、俺はこれはどういうことだとお前に聞いてもいいのか?」 「そうだなあ……うーん詳細はいーちゃんから聞きなよ。きっと零ちゃんなら話してくれると思うし。僕様ちゃんは、結果だけ言うよ」 結果とは。 つまり現在の状況。 「いーちゃんは色々あって、結果的に、人に触られると拒絶反応起こすようになっちゃった。」 「拒絶反応……」 人に触れられると。 そもそも、触られないで生きていくことなんてできるのか? 「もちろん条件みたいのはあるんだよ。触られるのは駄目だけど、ぶつかるのは大丈夫とか。零ちゃん、いーちゃんのどこに触った?」 「腕。二の腕だ。転びそうになったのを見てとっさに掴んだんだ」 「掴んだ。しかも二の腕。しかたないよね。うにー、でもそれは触られるよりひどいかもねー……どんなふうになった?」 「持ってたお盆落として、真っ青になって、立てなくなった。話しかけても反応しないし、動かなくなった。」 「んん。その程度なら軽い方だよん。触られ方とか、触られた場所によっては気絶する」 絶句する俺に青いのは続ける。 「僕様ちゃんは昔から触ってるけど、い―ちゃんは未だにちょっとフリーズしちゃうみたいだし。すぐ治るけど……うに、あとは本人から聞いた方が早いんだよ」 ちょうど良くドアが開く音がして、コードだらけの床がぎっと鳴った。 (12/23) [*前へ][次へ#] |