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月光夢壱

ぼんやり光る満月。
ぽけーっと見つめる自分。
見つめたって取れる訳でも、食べれる訳でも、行ける訳でもないのに。
明日も大学だからそろそろ寝なきゃいけないのだけど、どうも布団にはいる気にならない。
窓枠に突っ伏するように寝る。
月明かりがほどよく眩しくて、閉じた瞼の上から優しく光ってた。




「…っ、う、ごほっ、」

実はさっきから少し後ろにいるのだがむせすぎて気づかないらしい。実際僕も自分がここに立っているのに気づいたのはちょっと前だし。
さてどのタイミングで言おうかと思ったら、しゃがんで下を向いて激しく咳をしてはじめた。


「おぇ…っ」
「大丈夫?」

吐き気がするのか、つらそうな声をきいて自然に背中に手をのばした。
ゆっくりさすって優しくぽんぽん叩く。
しばらくたって落ち着いたのか、ゆっくり顔をあげた。あいつは案の定、ちょっと疲れた顔をしていた。

「よぉ」
「やぁ」
「背中さんきゅ。あー死ぬかと思ったぜ」
「何があったの?」
「とある赤いやつに腹を力いっぱい殴られた」
「へえ、僕もこの前とある殺人鬼に腹を力いっぱい殴られたよ。偶然だね、痛いよね、わかるよ」
「………すいませんでした」

今はこの話終わりにしといてあげる。
こんな話は君が帰ってからでいいんだ、時間が勿体無い。
横を向いて、途中は心の中で思った。
零崎がにやにやと笑った。


「痩せたな、ちゃんと食ってんのかよ」
「勿論。君の分までもりもりたべてるさ」
「傑作だな」

鼻をぎゅーっとつままれる。何故かきゅーっと目もつぶってしまった。

「バレバレな嘘ついてんじゃねえぞコラ」
「ちぇ」

ばれてるか。
うん、全然食べてないですはい。
鼻から手を離してほしくて手を叩いた。その時気づいたのだが、零崎の口に血が付いてる。

ポケットに手をつっこんで、ハンカチをだす。
顎を固定して、口の回りを拭う。

「血反吐ついてる…てゆうか顔が汚れてる」

顔を全部ふこうとハンカチを広げて裏返しにする。表は血反吐ついてるから。
なかなかとれなくて、ちょっと乱暴に拭いた。

「んぶぶ」
「結構、すごい戦いなの?はい、いいよ」
「ぷは、さんきゅ。割と、かな」
「そう…頭ぼさぼさ。顔も服も汚れてる」
「そんくらいって事さ」

ゴムを指にひっかけて、髪をほどいて適当に手櫛で整える。
後ろを向かれたので、おんなじ様に結ってやった。

「よし。いいよ」
「あんがと」

これでまた頑張れるぜ、と笑いかけられた。嬉しい反面、頑張りすぎて欲しくないと思って困った様な顔をしてしまった。ちゃんと笑えなかった。

「まあ座れよ、時間もまだあるみたいだしちょっと話そうぜ」
「うん」



なんだろう、隣に座ればいいものを何故か気恥ずかしくて少し間をとって座ってしまった。だけどその間が不自然で、一回近くにずれて間をちょっとうめる。

ちら、と零崎をみるとにやにや笑ってこっちに思い切り間を詰めてきた。
僕の照れを返せ。


「大学いってる?」
「うん。ちゃんと毎日いってる」
「ほんとに飯くってんのか?」
「食べたり食べなかったりかな…なんか一人分だけ作るのめんどくさいんだよね」
「あー、なんかチャーハンとかって適当に材料いれるから一人分ってなると作るの難しいよな」
「あれ絶対量多くなるよね」



たわいもない話。
それは昔橋の下でした、どうでもよくていつまでも話ていたくなるものだった。

不思議とキスしてほしいとか、抱きしめてほしいとかは思わなかった。
多分それは、全部帰ってきたらやるという気持ちの表れ。そして零崎の、絶対生きて帰るという覚悟、宣言でもあると思った。


ただ途中で気づいたら手繋いでた。
繋いだ記憶もないし繋がれた覚えもない。いつの間にか自然に繋いだんだろうか。

…………あう。手繋いでるの意識してからすごい手汗かいてる。
でも離したくないからそのまま動かさずに、ずっといた。


「……なんか」
「うん、そろそろだね。」


多分、僕らは起きる。体の感覚がふわふわしてきてた。


「あーあっと。めんどくせーな、はやく帰りてぇよ」
「面倒事は片付けてこいよな」
「おっけー」


立ち上がって、ぐいーっと背伸びをする零崎。
僕はぱんぱんっと座ってついた汚れ(ついたのかわからないけど)を手で落とした。

「ほんじゃな、今日も大学いってちゃんと飯食って寝ろよー」
「うい」

背を向けて向こうに歩きだす零崎。
声がでない、手をのばせない。
かければ虚しくのばせば離せなくなるから。


……これでいいのか。

僕は走っていた。力一杯、出来るだけ早く。
起きる前にやらなくちゃ。

どし、と背中に走ったままの勢いで抱きつく。

「うおっ!?」
「はぁっ…、はぁ…」
「……びっくりしたぁ…」


ぎゅっと手を前にまわして、肩に額を押しつける。当たった肩があったかい。

「零崎…」
「ん?」

零崎の腹で組まれてた手で拳を握り、言った。


「走れ、メロス」

零崎は拳をとんと僕の拳にぶつけ、返事を返した。


「ばいばい、セリヌンティウス」







「……ん」

僕はさっきみたく窓枠で突っ伏していた。体が軋んで痛い。

「しかし会えるとはね…」


んー、と背伸びをして、窓をしめた。

「走れメロス…あいつ気づくかな」

前は僕が言われたあの言葉。
うん。
…………うん。

「なんか恥ずかしくなってきたぞ」

赤くなった顔を手で覆い、部屋をうろつく。


メロスは最後、セリヌンティウスのとこへ走って帰る。

メロス、はやくしないと僕、餓死しちゃうぞ。


立ち上がって寝間着に着替える。
外を見ると満月で、ああ今まであそこにいたのかもしれないなと思った。

欠伸をしながら布団をひいて、よし、準備できた。

「よし。寝ます」



はやく帰ってこいメロス
(とかいて僕だけの王子様と読む…戯言だけどね)






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あきゅろす。
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