そして交わる平行線
 



 七年生になってようやく進路の心配をし、焦りだす生徒を見ると優越感を通りこして憐れみさえ覚える。もっと以前から準備をしておかないからだ馬鹿者め、と斜め向かいのテーブルで嘆く同級生に心の中で言ってやった。
 朝早くから図書室にいたが、昼に近い時間帯になってくると、騒がしくてならない。騒がしいと言っても生徒の話声が時折聞こえる程度だが、何だか落ちつかないのだ。図書館は本来、本のように静かに過ごすべき場所である。
 そういうわけで現在、闇魔術関連の本二冊と、魔法史の中世時代の出来事が事細かに記されている分厚い本を抱えて厳しい司書の待つ貸し出し所へと向かっている。一冊一冊がかなり重いが、もはや慣れてしまっていた。とはいえ、そろそろ腕に疲労が溜まってきて、早いところ本を借りて寮でゆっくり読みたいというのに、一人しか通れない幅の高い本棚と本棚の間の通路を、本を大事そうに抱えた女が塞いでいた。それどころか、足元を見ながら歩いているからか私に気づかず、こちらへ近づいてくる。
 このままではぶつかってしまう。

「……、おい」
「……」
「おい!」
「……えっ?」
 そして急に声をかけられ驚いたのか、女はつまづき私の方へ転んでしまった。

「う、わ、っ!」
「なっ! うおぁっ!」

 何て奴だ。そのまま私も女に体当たりされ後ろ向きに倒れてしまい、ああ情けない、情けないことに尻餅をついてしまった。結構な衝撃。

「……っつ、くそっ! おいっ、ちゃんと前を見て歩け!」
「あ、すみません……ぼーっとしてて……」
「ちッ、」

 落としてしまった本を拾いながら彼女を伺う。スリザリンの生徒のようだった。が、

(……?)

 スリザリンの生徒なら名前は覚えてなくても一通り顔くらいは覚えているのだが、彼女には見覚えがなかった。違う学年なのだろうか。
 などと考えているうちに、すでに自身の本を拾っていたた女は立ち上がっていた。

「あの、本当にすみませんでした、ごめんなさい……。では」

 早口でそう言うと振り返り、鳥が走る時のような早足で行ってしまった。

「ふん……、ん?」

 ふと見た手元には魔法史と闇魔術の本……そして、マグル学の教科書? まさか、

「あの女……間違えたな」

 教科書の裏表紙を見ると、几帳面そう な筆記で名前が記されていた。

「メア・トアロード……?」

 聞いたことのあるような、ないような。
 なぜそう思ったか、その名前を呟いたとき、何かが変わった気がした。


 

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