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声を殺して君を待つ(ロイ金)
窓に当たる雨粒の音が大きくなった。
夕刻から降り続いている雨は、この時間になっても止むことはなく更に激しさを増したようだ。
ふと、外を眺めたくなりロイエンタールはグラスを片手に席を立った。
カーテンを開け、隙間から外の景色を見る。
景色といっても街は既に寝静まり、家々の灯りは消えている。辺りに人通りもなく、街の静けさの中にぼんやり街灯の光だけが浮かんでいた。
(そろそろ寝るとするか…)
明日も早い。
グラスに残っていたワインを一気に仰ぎ、視線を落とすと門の傍らに佇む人影が見えた。
こんな夜更けに、しかもこの天候である…浮浪者の類かなにかだろうか。
怪しく思い目を凝らせば微かな光に照らされて金糸の髪が揺れる。
「なっ…閣下!?」
それが自分の敬愛する人物だと言うことに気づき、ロイエンタールは慌てて自室を出た。
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「閣下ッ!!」
やはり門前に居たのはラインハルトその人で、ロイエンタールはすぐさま駆け寄る。
「何かあったのですか?お呼び立て下されば私の方から伺いましたのに…」
「………」
ラインハルトから返事はなく、動こうともしないのでロイエンタールは心配になった。
「外套も羽織らず、お付きの者もつけず、こんな雨の中…無茶です」
私服姿のラインハルトは軽装で傘も差さしていない。
歩いて此処まで来たのか、濡れたシャツからは白い肌が透けている。
「とりあえず中へ…ッ!?」
肩に手を掛けると、その冷たさに驚いた。
「…いつから此処に?」
ラインハルトの肌は冷たく冷え切っており、長時間外に居たのだと知れる。
「………」
「……此処にいたら風邪を引いてしまいます…とにかく入って下さい」
反応を示さないラインハルトをロイエンタールは抱き寄せながら家に招き入れた。
*********
「先に体を拭いて下さい、直ぐに湯を張りますので」
ラインハルトをバスルームまで案内し、ロイエンタールは浴槽に向かった。
本当なら家人を起こして準備させた方が早いのかもしれない。しかし、時間が時間であり客も客だ。余計な騒ぎにしないためには自分で動くほかない。
ボタンを押すと自動で適した温度の湯が出てくる。数分で湯は溜まるだろう。
雨に濡れ自身の体も少し冷えていたが、先に彼を温めなければならない。
脱衣所へ戻ると、ロイエンタールからバスタオルを受け取ったままの姿でラインハルトはそこに立っていた。
「閣下…お風邪をひいてしまいます」
雨に濡れた金の髪は輝きを失い、立ち尽くして物言わぬラインハルトに常の威厳はない。
放っておいたら、このままの状態で居続けるだろう。
ロイエンタールは小さくため息をつき、ラインハルトの手からバスタオルを奪うと頭から被せた。
ゴシゴシと、遠慮なく力を込める。
乱雑に頭を拭けば文句のひとつでも言ってくるかと思ったが、ラインハルトはされるがままになっている。
濡れて肌に張りついたシャツが目に付いたが、さすがに服まで脱がせるわけにはいかないので退室することにした。
「それでは、私は外で待っております。何かあったら声を掛けて下さい」
ドアの方へ向かおうとした時、手首を掴まれる。
「閣下?」
やっと反応を示したかと思ったが、無言のまま俯いているので、表情は伺えない。
「何か?」
再び呼び掛ければ、静かに体を寄せてきた。
そして、肩口に頭を載せられる。
「あっ………の」
「………」
ドクン、ドクン、かつてないほどの近距離で不覚にも心拍数が上昇していくのを感じた。
自分としても情けないが、身動きがとれない。そうしている間に密着した場所から、こちらの服まで濡れていく。
「………卿は」
「は、い」
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはラインハルトの方だった。
「…卿は…………生きているのだな」
「えっ?」
「卿は…生きている」
ラインハルトの言わんとすることは憶測でしか読み取れないが、この行動の意味は分かった。
肩口に頭を載せ、首筋に耳を寄せ、血の流れる音と暖かさを確かめているのだ。
「………ええ、生きて、此処に…貴方の側に居ます」
「…そうか」
自分にはそう答えることしかできない。
こんな時、彼ならどうするだろう。
この方の全身を包み込むように優しく抱き締めて、それから耳元で優しい科白を囁くのだろうか?
だが、ロイエンタールはそれらの行動を取ることはしなかった。
きっと、この方も抱き締められ優しく慰められるのを待っている…それが分かるからこそ動かない。
(貴方を慰めるのは俺の役ではない…俺にそれを求めるのは無謀なことだ)
「さぁ、閣下早く顔をお上げになって下さい」
(そして、目の前に居るのが俺だと確認してくれ)
ゆっくり顔を上げたラインハルトと目が合う。
その瞳には笑顔を貼り付けた己の姿が映っていた。
ラインハルトの表情がどこか寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
自分の髪が燃えるような赤色ではなく、漆黒の闇色で良かった。
彼のような透き通る青の瞳ではなく忌まわしい金銀妖瞳で良かった。
性格、背格好、容姿…自分のどこを取っても彼と似たところはない。
この、ラインハルトにとっては残酷であろう事実がロイエンタールにはとても喜ばしいことだった。
この体で動いている血も、熱も、心臓も他の誰でもない俺のもの…俺だけのものなんだ。
(…身代わりになどされてたまるか)
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ずっと書きたかった黒金。でも纏めきれなくて長い間頭の中で保留してました。結局、纏めきれなかった(・ω`・)
読まれるにあたってハルトやロイのお家事情は無視で(/ω\;)
2期ぐらいの設定のつもりだけど、各々どこにどんな形で住んでいたのか…ぼんやりとした感じで捉えてもらえると助かります。元帥府暮らし?寄宿暮らし?自宅暮らし?考えちゃイヤン(//ω//)
ハルトが寂しくて情緒不安定になった時、側で支えてくれる人がこの時期に居なかったであろう事実がすごく悲しい。
そんな相手を作ろうとしないハルトだから変なとこで気持ちの制御が上手くいかない。
姉ローゼ様は居ないし、みったんはエヴァが居るし、オベは愛犬家だし←
そうなるとロイに頑張ってほしい。ハルト様が来そうなときは女性を家に連れ込むな!そんなことしちゃうとミュラーやファーレンはたまたビッテンのとこに行っちゃうんだから!!助けてケスラー(>_<;)←
途中、思いっきりロイのキャラを崩してやりたかった。ヘタレ男にしてやりたかった。頬を染め慌てふためくロイとかにしてやりたかったけど、どうせならいつかギャグでも書いて鼻っ柱をへし折ってやりたい(^O^)/(酷すぎだろ(笑)
そして、いつでも赤金←ロイから抜け出せない。
大人気ないロイ。これが、みったんなら優しくしてあげてるだろうな。ハルトに認められたいけどキルヒと同一視されたくないんだよね。同じじゃ嫌なのよね。
…やっぱ、いつかギャグでメタクソにしてやりたい(∂ω∂)
愛故です^^
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