03.保健室に行きましょう。 「岩ちゃーん。及川さんちょっとお出かけしてくるねー」 「はぁ?お出かけって部活中に何ふざけたこと言ってんだ」 「大丈夫大丈夫!ちゃんと休憩終わるまでには帰るから」 眉毛を釣り上げる相方を無視してじゃぁねーと体育館を後にする。休憩時間というタイムリミットがある為目的地へ少し駆け足気味で向かう。 途中で廊下を走るなと先生に怒られたからごめんなさーいと返したらもっと怒られた。いくら俺の返しが軽かったからってそれは酷いと思う。 そんなこんなで目的地にたどり着いた俺は中にいるだろう人物の名前を呼びつつドアに手をかけた。 「やっほー皐!」 「徹?」 思った通りドアの向こうにはよく見慣れた幼馴染の姿があった。訪れた目的地というのは実は保健室。今週は保健委員である皐が担当だと聞いてここに遊びに来たわけだが保険医の姿はなくどうやら今は一人の様だ。 しかし今言ったようにここは保健室。訪れる人は怪我人か病人ということで俺も例外なく「もしかして怪我でもしたの?」と声をかけられる。 もしここで「怪我はしてないけど遊びに来ちゃった☆」なんて本音を言えば怒られるのは目に見えている為ここは嘘をつくことにした。 「実は突き指しちゃって」 「嘘!大変…どの指!?痛みは?」 慌ててこちらにかけよる様子から一目で俺の心配してくれてるのが一目でわかった。単純な嘘にも関わらず本気で心配してくれているのは純粋に嬉しくて思わず笑みがこぼれそうになるのを我慢する。 そういえば俺や岩ちゃんが怪我したときは決まってこんな風に皐が手当してくれたなと昔のことを思い出す。 年齢を重ね怪我をする頻度が減ったのでこうやって手当してもらうのはとても久しぶりだ、なんて考えている間に皐は手慣れた様子でテーピングなどの準備をし、俺の右手中指をしっかりとつかんだ。 …ん? 「何で指握ってるの?」 テーピングをするんじゃないのかと問えば静かに、そして低い声で言葉が返ってきた。 「突き指したって言ったくせに…これだけ強く握っても指、痛くないんだ」 「へ?」 「そうだよね。痛いわけないよね。だってテーピングが必要ないくらいきっれーな指してるもんね」 あ、やばい。これだめなやつだ。 だって顔も話方も怖い!超怖いって!! その小さな体のどこからでているのか不思議な程の威圧感を出しつつこちらを睨みつけているだろう皐の目を見ることができずに目線を泳がせる。 「突き指したなんて嘘までついて何がしたいの?わざわざ部活抜け出してまで私をからかいにきて楽しい?」 「…お、怒ってる?」 「怒ってないように見えます?」 「いえ。見えませんごめんなさい」 始め心配した表情をしていたのが嘘かのように一気にご機嫌斜めになった皐。いや、最初からこんな嘘で騙しきれるとは思ってなかったし嘘ついた俺が悪いのは嫌って程理解してはいるんだけど。 「ごめんごめん!ちゃんと休憩が終わるまでには帰るから!」と言ってはみるも怒りが収まる様子は全くない。 そうだよね。わかってる。皐が怒ってるのはそこじゃないもんね。 「心配かけてごめんね」 俺は大丈夫だから。 そう言葉を続ければ俺の指を強く握っていた手から力が抜けるのを感じた。そして皐の手が一度離れたかと思えば今度は両手で俺の右手を包む。そんな相手に視線をやれば眉を下げた皐と目が合った。 「突き指が酷くてもし最後の予選に支障がでたらどうしようって思った…」 「ごめん」 「ほんとに心配したのに…」 「うん。ごめんね?」 もうこんな嘘はつかないでと言う皐の姿に嘘をついた罪悪感と同時に不謹慎ながらも心配してくれて嬉く思ってしまった。 今度は嬉しい気持ちも顔がほころぶのを隠しもせず「心配してくれてありがとう」と皐の両手に左手で触れた。すると俺が笑っているのが気に食わなかったのだろう。八の字になっていた眉毛が一気に吊り上がり再度こちらを鋭い目つきで睨んだ。 つもりなんだろう。本人は。 「皐。その顔は他の男子にはしちゃだめだよ?」 「?どうして?」 「どうしてって、可愛いから」 高校生男子の平均より確実に身長の低い皐がいくら睨んでも身長差のせいでこちらを見上げる形…即ち上目づかいになるわけで。 男って単純だからね。本人にその気がなくてもこんな表情で見つめられたらクラッときちゃうって!! 「徹…前からおかしかったけどとうとう脳みそまでやられちゃったの?」 「え。それってどういう」 「ごめんね。私じゃ徹は治せない。というかバカは死なないと治らないから…ごめんね?」 「ちょっと!真面目な顔してなんてこと言ってるの!!」 昔からこの子はそう。無意識、無自覚だからたちが悪い。ほんと、もっと警戒心を持ってくれないかな。(及川さん心配!) 以前、何で俺が可愛いって言っても信じてくれないのかってきいたら「徹の可愛いは軽い。真に受けるだけ無駄」って言われた。そのことも手伝って皐は一体俺のことをどう思ってるのか少し気になった今日この頃。 [*前へ][次へ#] |