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01.印象は最悪 










ある昼下がりのロード中。
男共に絡まれていた女からとりあえず男を追っ払った。



「頼んでもないのになに勝手に割って入ってくるの?ばかじゃないの?」



繰り返し言う。
俺は絡まれていた女から男を追っ払った。

恩を売るつもりはないが何で俺がこんな悪態をつかれなければならない。



「ああ、そうかよ。もう2度とお前なんか助けねえよ」

「うん。そうして」



じゃあ、と手をあげて去っていく女の背中を見送りもせず俺はロードに戻った。

ったく、何なんだよあの女。






01.印象は最悪







「あれ、宮田君じゃないか!!今日は一体どうしたの!?」

「…ちょっと、鷹村さんが俺に用があるらしくてね。」



あの後、最近時間のある時に鴨川ジムに来いと言われていたのを思い出したのでロードついでに久々にここ、鴨川ジムに久々に顔を出した訳で。



「そっかー。鷹村さんは今会長に呼ばれてるから中に入って待ってなよ!さあさあ!!」

「あ…ああ、」



扉を開けた瞬間こちらに駆け寄り俺を中に招き入れた幕之内は相変わらず一人で無駄にはしゃいでいた。

訪れたのは久々だが見慣れたこのジム内をベンチに腰掛け見渡す。このジムを出たのはもう何年も前のことだが中は以前と何も変わっていない。

強いて言うなら俺の知らない練習生がいるくらいだろうか。



「しかし遅いな」



結構待ったが一向に鷹村さんが姿を見せる様子がない。まあ、今日にと約束していた訳じゃないし仕方ない。

…帰るか。

そう考えて立ち上がった瞬間、ようやくあらわれた鷹村さん。タイミングわりぃよ。



「よお、宮田。俺様をまってたんだろ?悪いな」

「今帰ろうとしてたとこですよ」

「よし。じゃあ、やるか。リング上がれ」

「話聞いてました?しかもリングって、」

「宮田君、今回は鷹村君のスパーの相手を買って出てくれてありがとう」

「はあ?」



ちょっと待て。話についていけない。スパーの相手を買って出た?八木さんは一体何を言っているんだ。



「え!?鷹村さんのスパーリングパートナーが宮田君?うわあー凄い贅沢なスパーだなー!っていうことは鷹村さんの試合までこっちに来てくれるの?嬉しいなあ」



幕之内、うるさい。
お前さっきまで向うでサンドバック叩いてたくせにどっから湧いて出た。



「で、これはどういうことですか?」



ちゃんと説明してもらわないと困るとよくよく話を聞いてみれば鷹村さんの次の対戦相手がアウトボクサーなので調整の為俺を呼んだとのことだった。



「お前は当分試合ねえんだろ?木村の奴じゃもの足りねえし頼むわ」

「確かにこの間試合したばっかだから今は空いてるけど…ちゃんと俺に話通して下さいよ」

「そうだよ鷹村君!僕はてっきり話をつけてるもんだと…」

「八木ちゃんまでそんなこと言ってんなよな!この俺様とスパーが出来るんだ、断る理由なんてあるわけねえだろーが!!」



…この人はこういう人だよな。
でも確かに世界チャンピオンとのスパーだ。俺も得るものは多いし断る理由はない。それに父さんも同じことを言うだろう。

そう思いスパーの件は受けることを伝える。



「でも今日は帰ります」

「ああ?なんでだよ」

「宮田君帰っちゃうの!?」

「今日はロードの途中で寄っただけですしね」



準備をしてまた明日来ます、と言えばちょっと待てと呼び止められた。

何でもいいもん見れるから待っておけだと。
いいもんってなんだよと聞けば「もうすぐいい女が来る」なんてどうでもいいことぬかしやがった。



「興味ない。それに女はもうこりごりだね」

「何かあったの?」

「さては…こっぴどく振られたな?」

「アンタと一緒にしないでくれ。ここに来る途中に助けた女がすっげえ癇に障るやつだったんだよ」

「それってどんな?」



この話に思いの外食いついてきたふたりにロード中に助けた女の話をする。

あの女を思い出したうえに何故か鷹村さんのめちゃくちゃいい顔。すっげえムカつくんだけど。



「宮田君が助けてくれたっていうのに酷い子だね!」

「お前、女にそんな扱いされるの初めてなんじゃねえの?」

「女に、というかあんな人間中々いないと思いますけどね」

「まあそういうなって。皐はほんといい女なんだからよ。さ、もう来るぜ」

「え、いい女って皐のことだったんですか!?」



鷹村さんが女の名前を出した瞬間異常に反応を示す幕之内。しかしコイツが名前を、しかも女を呼び捨てなんて。見るからにそんなタイプではない幕之内に失礼ながら少々驚いてしまった。



「ま、ちょっと生意気な奴だけどとにかくいい女なんだよ!」

「あれはちょっとで済むんですかね…」



何やらげんなりとした表情の幕之内。
だがちょっとくらいなら別にいいだろう。何せ俺は今日既にちょっと、では済まされない程癇に障る女に出会っているのだから。

あんなに嫌な奴はそういないはずだ。


「……、」



…いや、まてよ。
よく考えてみたら過去にいた気がする。
というか、今日の女を俺はどこかで見たことがある様な気が…。


「こんにちはー」

「おー皐、待ってたぜ!ほら、宮田。コイツがさっき言ってた奴だ」

「…な、」


思わず目を見開き、声が漏れた。
それは仕方ないことだろう。何せ、鷹村さんが言っていた女と俺が今正に思い浮かべていた人物が同一人物で、しかも目の前に現れたのだから。



「先程はどーも」

「何でお前がここに…」

「部外者のアンタに言われたくないんだけど」

「……、」


いや、どっからどう見てもお前の方が部外者だろ。本当に癇に障る奴だな。

元々優しい方ではない俺ではあるがこれは誰でも同じ気持ちになるのではないだろうか。

この俺達のやりとりにさっき話した女がこの皐と呼ばれている女と同一人物だと気付いた外野ふたりはなんだか騒がしく「宮田君ほんっとにごめんね!!」と何故か幕之内が謝ってきた。
(何故お前が謝るんだよ。)



「…じゃあ、俺はこれで」

「おう!またな!!」



ここにいる限り苛立ちが増すだけだと確信した俺は早々と鴨川ジムを去ることにした。

去り際、鷹村さんに「な?いい女だろ?」なんて声かけられたけど全然俺には理解できないね。

そんなこんなで相変わらず女に代わって「ごめんね宮田君!ほら皐も謝って!!」と俺に頭を下げる幕之内とそれをあからさまに無視する皐と呼ばれる女の横を通り抜け川原ジムまでロードを再開した。

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あきゅろす。
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