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二回目
その日は唐突に訪れた。

「……?」

いつものように登校していると、周りの視線が普段とは違うものに気付いた。

形容しがたいけれど、なんだろう、生温かい目で人を見るような視線。

不思議に思いつつも高校の近くまで辿り着いた時には、その不思議な感覚ははっきりと僕の中で確信へと変わっていた。

来ないのだ。誰も。

毎朝絡んでくる連中も、もちろん、潮崎も。

(嫌な予感がする……)

思いつつも、僕は下駄箱のロッカーを開け、そこでも驚いた。

本当に何も無い。

いつもはぐちゃぐちゃにされているであろう僕のロッカーの中は、先週の金曜日に閉めた時からと何一つ変わっていない。
きちんと揃えられたスリッパがそこにはあった。

「おはよ」

一瞬、自分に声をかけられたとは思わなかった。
けれど肩をとんとんと叩いて交わされた挨拶に、僕は勢い良く振り返る。

「今日もだりーよな。俺まだ眠いわ」

なんてことはないような普通の会話を僕に向けてくるクラスメイトの一人が、本当に眠たげに欠伸をしながらそう言った。

「一緒に教室まで行こうぜ」
「う、ん」

僕はどこか別の世界にでもやって来たのだろうか。
今日は何月何日だっけ。

様々な想像が僕の頭の中をかけ回る。

「そいや、今までちゃんと話してなかったよな、俺ら」

その生徒は山田と言う。下の名前はよく覚えてはいない。

「また休み時間とか、喋ろうな」

二カッと笑って山田は教室の中へと入って行った。

「るーいっと、君♪」

その時だ。
ぞわり、とした感覚が僕の身体中を駆け巡ったのは。

「潮崎……」
「『レン』、でしょー?」

耳元でこそっと言うように僕の肩に手を回して話しかけてくる。
全身が強張るのが分かった。

「クラスのみなさーん、ちょっと類斗君お借りしますねー!」

楽しげにそう言う潮崎に向かって、まだまばらに登校して来ていた生徒たちは、皆一様にクスクスと笑いながら「いいよー」や「早く返してよね」等と言ってきた。

「じゃ、行こっか♪」

言葉とは裏腹に肩に回った潮崎の手の力がひどく強かったので、僕は逆らう術もなく、半ば無理矢理彼の後について行った。

予想通り、そこは体育館裏だった。

「類斗」

潮崎の目が細まる。

「レ、ン……」
「驚いた?」

ふふふ、と笑う彼を見ながら、僕は何の事を言っているのか分からず、とりあえず訝しげに潮崎を見つめる。

「いじめ、なくなったでしょ」

はっとした。
毎朝絡んでくる生徒、靴箱のいたずら、机の落書き。

そのどれもが今日に限って、綺麗に本当に何も無かったのだ。

「類斗はオレに感謝しないとね」

そう言ってマスクを外された僕の唇に、潮崎のそれが重なってきた。

「っん……!」
「暴れちゃだーめ」

くちゅ、くちゅと舌を抜き差しされながら、それでも僕は必死の思いで抵抗する。

「類斗も口開けて」
「やっ……!」

『嫌だ』と言おうとしたその隙を狙って、潮崎が早急に舌を絡ませてくる。

「はっ、あ、ぁっ……!」
「このまま、ヤっちゃおうね」

スラックスのベルトに手を伸ばされて、僕は慌てて潮崎の腕を強く掴んだ。
けれどそれも力の差からか、振り払われる。
眼鏡を取り上げられた。

「類斗のお腹の中に、いーっぱい、中出ししてあげるね」
「嫌! やだあぁぁぁ!」

必死の叫びも虚しく、潮崎はそのまま僕を押し倒した。



その後のことはあまり憶えていない。
ただ、直腸内に残った彼の多くの精液だけが、全ての情事を物語っていた。

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