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眼鏡とマスク
「木下君」

呼び止められて、僕は振り返った。
















『ここじゃ恥ずかしいから別の場所で』

そう言われて連れて来られた場所は、毎朝僕が寄っている例の体育館裏だった。

嫌な予感がして、僕の身体は強張る。

「ごめんね」

それまで彼女の背中しか見ていなかった僕は、その背中越しに突然謝罪の言葉が出てきたので戸惑った。

「いきなり、呼び止めて」

どこかに行くところだった?

振り向いた彼女の言う台詞も上手く頭に入らない僕は、ただただ狼狽える。

「木下君……いつも休み時間になったらどこかに行っちゃうから」
「ご、ごめん」

やっと出た言葉に自分で呆れる。
謝り癖がついているのは自分でもどうしようもない。

「謝らなくていいよ。そういう意味で言ったんじゃないし」

両手を広げて慌てた様子で言った彼女は、僕と目が合うと優しく微笑んだ。

「ねぇ」

彼女の名前がどうしても思い出せない僕は、申し訳なささにまた下を向いてしまう。

「木下君」

そのためか、彼女が近付いて来ていることにも気付かなかった。

「顔見せて?」
「っ!」

突然のことだった。
マスクと眼鏡が外されて、顔面が外気に触れる。

「っ返して!!!」
「へぇ。やっぱり思った通りじゃん。ね、みんなー」

そして、何人かの足音が聞こえてきた。

「サトミやるじゃん」
「つーか、やばくない? アイツらに見つかったら」
「いや、大丈夫っしょ」
「そうそう、すぐ済むって」

嫌な予感が、予想通り、すぐ目の前まで迫っていた。















「うっ、う……」

苦しい。
死にたい。
苦しい。

「類斗」

哉也に会いたい。
今すぐ。
カナ……

「類斗」
「っカナ!」

涙でぐしょぐしょになった顔をあげると、そこには僕の願ってやまない人物が立っていた。

「ふざけんな」

思いきり抱き竦められて、僕はまた泣き崩れてしまう。

「カナ、ちゃ……」

そのまま僕は泣き疲れ果て眠ってしまった。











――――――――


「ん……」

白い天井。カーテン。

「起きたか」

保健室だ。

「帰るぞ」

目が覚めると僕の顔にはいつも通りマスクと眼鏡が装着されていた。

「ありがとう、哉也」

そう言って僕はゆっくりとベッドから降り立った。

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