始まりは体育館裏
「おーいそこの地味ダサ眼鏡くん?」
あぁ。
また今日が始まった。
「オマエちょっとこっち来いよ」
「はいはい、どうぞこちら〜」
「はよ来いやボケェ!」
毎朝毎朝、決まって言われるこの台詞。
飽きないのかっていうくらい同じ会話だ。
僕は胸元で握りしめた通学鞄を抱きしめるようにぎゅっと力を込めた。
「ちんたら歩いてんじゃねぇぞ!」
毎朝繰り返されるつまりは日常茶飯事の光景なので、同じようにして周りで登校していた生徒たちは出来るなら関わりたくないとでも言わんばかりに視線をそらせたり、下を向いて携帯を弄りながら歩いていた。
そんなこと、僕にはどうだっていい。
だって、これは『日常茶飯事』なのだから。
「る、い、と、くーん」
「……」
「わかってるよね?」
連れて来られた体育館裏は、いつもと変わらない殺風景な景色。
もちろん誰も来ないし、僕たち以外には誰も寄り付こうとしない。
「どう、ぞ」
差し出した薄っぺらい紙切れは、勢い良くその手から離れていった。
「毎度あり〜♪」
「んだよ、こんだけかよ」
「もっと持ってんだろ」
「出せよ」
矢継ぎ早に他の不良たちが僕の鞄を奪い取り、目当ての財布を見つけると意気揚々とその場を去って行った。
「類斗」
終始下を向いていたので、突然投げ掛けられた言葉に僕は勢い良く顔をあげた。
まだひとり残っていた。
――――ガンッ!
そんな擬音が相応しいくらい僕の頭の中ではカチカチと音が鳴って、一瞬目の前が真っ暗になった。
「っごほ、けほ」
殴られた。
「簡単に金渡してんじゃねぇよ」
――――ガンッ、ガン
「もっと抵抗しろよ」
その間にも攻撃の音はやまない。
「見ててイライラする」
僕はその時間が終わるのを必死の思いでただ待っていた。
―――――――――
「ただいま」
今日も一日が終わった。
ほっとして家に着くと、先に帰っている人物がいることに気付く。
カナヤだ。
自然と笑顔になる頬を緩めたまま、僕はリビングに続くドアを開けた。
「ただいま」
「ん」
哉也はソファで寛ぎながら雑誌を見ていた。
「早かったね」
「お前が遅いんじゃねぇの?」
よかった。
いつもの哉也だ。
―――――
「ん、……っ、あ、ん」
ギシギシとベッドのスプリングが激しく鳴っている。
「るい、と」
「や、あ」
「類斗」
突然動きをやめた哉也を訝しげに僕は見上げた。
「朝、痛かったか?」
聞かれることは分かってたけど、あえて僕は知らないふりをして笑顔を作った。
「ちょっと」
「ごめん」
ギシ、とまた音が鳴った。
「カナ……っ、ぁ」
今日も夜は更けていく。
明日もまた同じ一日が始まる。
希望→
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