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●§探偵事務所§●
鳥の刻印1
それは太陽を受けると金糸のように煌いて。

我輩を見つめる大きな眼〈マナコ〉は
傷一つない宝玉のように輝いたから。

胸まで伸びるそのまっすぐな毛を


喰ってやろうと思った。




『鳥の刻印』




シュッ シュッ シュッ

謎を探す為デジタルの海に潜っていた我輩が戻ってくると
トロイの横ではヤコがこの事務所の有能な秘書、アカネの髪を鋤いていた。

「アカネちゃんの髪ってロングなのに
毛先まで綺麗だよねー。羨ましいなぁ・・・」

どうやら恒例の『とりーとめんと』とやらをアカネに施しているようだ。
奴隷は卑しくも死体の毛髪を羨んでいる。

「アカネと融合すればいつでもその髪は手に入るではないか。
貴様は一体何が気に入らんのだ。」

「うわっっ!ネウロ!脅かさないでよ!」

ヤコは大袈裟に跳ね上がると櫛を取り落としこちらを振り返る。

「脅かしてなどいない。貴様が勝手に跳ねただけだろう。
この臆病なバッタめ。」

数ミクロン程しかない貧しい脳味噌で
またも下らない事を考えていたのだろうと
我輩は大きく溜め息をつくと椅子に沈み込む。

「そーゆーんじゃなくって・・・。
自分の髪がキレイだったらいいなぁって
年頃の女の子は皆思うもんなの!」

櫛を拾いながら奴隷は偉そうに意見して口を尖らせる。

「無いものねだりの夢想などに時間を費やして
自己の能力を磨く事を怠る貴様らに他者を羨む資格などがあるものか」

我輩の言葉に反論を諦めたのか
ヤコは肩を落としてアカネに向き直り
ブツブツと文句を垂れている。

「だってうちはお父さんもお母さんもキレイに真っ直ぐな髪なのに・・・。
私だけ伸ばすと変なクセが出ちゃうんだもん・・。
羨みたくもなるよ・・。」

目を細めてヤコの後ろ頭に目をはせると
細い金髪がサラリと揺れた。


我輩は息を吸って自らの顔を変形させて。

「それは貴様が悪いのだヤコ。」


含みを持たせて言い放つ言葉に
振り返る奴隷は本来の姿に戻る鳥のような我輩の顔に目を剥いて息を詰める。


「貴様が悪い。」



しかし

「ちょっとネウロ!いきなり何で戻ってんの!?」

このミジンコがすぐにいつもの顔に戻って文句を紡いだから。

「・・・気に入らん・・・」

「何が?」

我輩は飛び上がりヤコの前に降り立つと
その頭を勢いよく掴んだ。

「わわわわわ!!ちょっちょっ!待った!
私が悪うございました!!謝るから許して!離してよぉ!!」

「何を謝るのだ。
解りもしないで許しを乞うなどと貴様は一体何様のつもりなのだ。
この低脳で見苦しいウジムシめが。」

ギリギリギリギリ

我輩は空いた手でヤコの体を掴み
細い首を横に折り曲げる

「ひゃーー!!
生意気な口聞いて悪かったっつってんだってば!
やめてよこのドS魔人!馬鹿ネウロー!!」

およそ謝罪には聞こえない言葉を吐いて
ヤコは混乱に身をよじるが
無論我輩の手の内からは逃れられる訳がない。

「貴様が忘れるから悪いのだ」

我輩がギョロリと目を剥いて見下ろすと
ヤコは痛みに震える瞳に怯えをにじませ見上げてくる。

その瞳にあの時感じた虚無の色はなかった。

我輩は唾液に濡れた嘴を大きく開けると


その白く細い首元へと襲いかかった。

「―――――――っっ!!!!」











『――それは少女だった。


まだ我輩が闇に住まい。


ウジムシの形などしていなかった頃の記憶―――』








そしてヤコの脳裏に



何かが弾けて浮かび上がった――――

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