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●§探偵事務所§●
赤い箱3(笹ヤコ)
その頃弥子と笹塚はたまたま通りがかった道で事件と遭遇して
広まり過ぎたその顔を野次馬に見止められ、
現場である民家へと引き込まれていた。

現場には通報を受けた近所の巡査達と救急車のみが到着しており
被害者の息がない事を確かめると彼らは捜査一課の刑事の到着を待っていた。

笹塚は弥子を現場に入れることを嫌がったが、
周りの空気にそうもいかずに
渋々弥子を引き連れて家の中に上がっていった。

昨日程ではないにしろ、床に広がる血の跡が生々しい。

現場の様子を確認する刑事の背後で弥子は焦っていた。

最近は人の気持ちが多少読めると言う事に
少しは自信を得てきたとは言え
それでもネウロの協力無くしては
自分は未だにただの女子高生にしか過ぎないのだ。

でもそんな事は自分を探偵だと信じている人々には関係なく
遺族のすがるような目が弥子にまとわり着いて
嫌な汗に頬が湿った。

しかしこれでもずいぶんと長い間魔人の側で事件を見てきたのだ。

何とか気を取り直して
弥子は現場を見回し事件の真相を探ろうとした。

いずれ魔人も臭いをかぎつけてやってくる事だろう
しかし謎のないただの殺人であれば
魔人の言いつけを無視した弥子への怒りを
更に増長する道具にしかならないと言う事に改めて思い至り
身震いしてしまう。

まだ、笹塚さんにも何も聞いてないのに・・。

グルグルと思考を回している内に
弥子はうっかり血だまりに足を踏みいれてしまった。

ビチャッ

「わっ!」

ふくらはぎに血が飛び散る。
気付いた笹塚が口早に言った。

「足、下ろさないで」
弥子は片足を上げたままのポーズで固まってしまう。

笹塚は少し考えて一度部屋を出ると、
弥子のローファーを持って戻って来た。

「・・ごめんなさ・・」
あまりにも情けない自分の失態に
泣きそうな顔をして言いかけた弥子の視界が急激に変わった。
「!!」

突然笹塚に抱え上げられて頭が混乱する。
玄関の方からは到着した他の刑事の声が聞こえてきた。

自分の状況を把握して
みるみる弥子の顔が紅潮していく。

「これ。現場写真。
ちょっとこれ履き替えてくるから。
あとヨロシク。」

笹塚は自分の小さなデジカメを巡査に渡すと、
そそくさと裏口から抜け出した。

「あのっ
笹塚さんっっ」

弥子の声を聞きながして笹塚は
邪魔になるからと
別の場所に回してもらっていた自分の車に弥子を乗せ
自分も急いで運転席に回り
後部座席から帽子を取って弥子に被せて
慌ただしくその場から車を発進させた。


現場から車で十分ほど離れたコンビニで
笹塚は靴下と大量のお菓子を買ってきてくれた。

助手席のドアを開けてお菓子を渡してくれる。

「あ・・ありがとうございます・・」

先刻の恥ずかしさが覚めやらぬまま受けとる弥子に
笹塚は菓子を後ろに置いて
ドアの方を向くように促した。

いぶかしげに体勢を変えた弥子の前に
笹塚が屈み込む。

「・・え・・?」

笹塚はスーツのポケットの中から真新しいハンカチを取り出すとそのまま弥子の足に着いた血を丁寧に拭い取った。

「!!?」

いきなりの事に弥子は固まる。
自分の足下に屈む刑事を目をむいて見つめていると

笹塚は買ってきた靴下の封を解いて金具を外し
再び弥子の足を取って血まみれの靴下を脱がせ、
新しい靴下を履かせはじめた。

ややややややや!!!

弥子の頭が沸騰しすぎてパンクしそうになる。
「あのっ、あのっ!あのっ!!
じ・・自分で履けますからっっ!!!」

裏返った声で必死に巻くし立てるが
笹塚はたいして気にする様子もなく
もう片方も脱がせて新しいものに変えた。

ふいに。笹塚が呟く。

「あいつが解いてるんじゃないのか?」

今度は。
弥子は別の意味で目をむいてしまった。

無言で自分を見つめる少女とは目を合わせず。
笹塚は少女の足下に靴を置いた。

「履けば?」

弥子はしばらく動けずにいたが
そろそろと足を伸ばし
座ったままでは届かない事に気が付いて立ち上がった。
笹塚もそれに合わせて立ち上がる。

近い・・・・。

弥子はうつ向いて上目使いで笹塚を見上げる。

落ち着け・・・・。
聞きたい事がいくつもあったはずだ・・。

弥子は当初の目的を思い返す。

ただ。
質問の内の二つはすでに答えが出てしまっていた。

一つは
笹塚のネウロに対する認識。

もう一つは
昨日の笹塚さんの態度なのだが。

弥子は自分の足を拭うハンカチを見て。
気付いてしまった。

(笹塚さんは。
きっと。
血まみれの部屋で血の付いた私を見る事が辛かったんだ・・。)

今更思い至り唇を噛んで。

血まみれの部屋で見つけた箱。
家族の死体が人型でない事が
唯一実感を薄めていたであろう記憶に

私が楔を刺した。

笹塚さんがXによって受けた体の痛みも、
以前にも増して彼を敏感にさせるのに充分な理由だったんだろう。

(・・あの時も今も
笹塚さんは私と妹さんを重ねて見ていた・・。)

そうとしか考えられなかった。

無言でこちらを見ている笹塚に
息が詰まる。

涙が出そうになって
弥子が顔を反らすと

笹塚の腕が弥子の横を通り
背中を支える車に着いて
少しだけ揺れた。

向きかえり、表情の読めない笹塚の顔を見上げると
弥子は三つ目の質問を問いかけた。

「お父さんが殺された日の夜に・・」

笹塚の腕がピクリと動く。

「私・・。
お父さんの部屋・・と言うか・・。
現場の部屋を覗きに行ったんです。」
笹塚の目が
大きく見開かれる。

「でも・・。
ドアを開けようとした時。」


「・・誰かに目を塞がれてしまって・・。」
弥子の目が問いかける。

「私、悲しくなって。
涙が止まらなくなって・・。」

「・・そのままドアを閉めました・・。」

笹塚の目は、いつもの冷静を取り戻していた。

「気が付いて振り向いた時には
後ろに誰もいなくって・・。」

黒に縁取られたブラウンの目の奥を
探るように弥子が見つめる。

「あれは―――――」

誰だったのか――。

言いかけたその時。
二人の視線を黒い手袋が遮った。

「探しましたよ。先生」

響いたのは

聞きなれたネウロの
冷たい声だった。。

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