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●§探偵事務所§●
赤い箱1(笹ヤコ)
笹塚さんの家族はXに殺された。

血だらけの部屋に並ぶ赤い箱を見て
この人は一体、何を思ったのだろうか。

『赤い箱』

華も恥じらう女子高生としてはまったくもって不本意な事だと思う。

超ドS魔人ネウロに脅迫されるがまま、事件と言う事件に引き回されているうちに
私は随分と事件現場を直視する事ができるようになってしまった。

とは言え今回のような特に常軌を逸してる現場では
さすがに堪えかねて目を覆いたくなる。

高級ホテルの白い部屋は被害者達の血でそのほとんどが塗り変えられていて。
柔らかい絨毯に踏み出すと赤いゼリーがベチャリと音を立てた。

HALの事件以来
警察の人達はネウロと私を顔パスで事件現場に通してくれるようになった。

一人サクサクとごはん(謎)の支度をするネウロに取り残されて
私は血まみれの部屋に佇んだまま、視線を反らす先を探していた。

と、前方で血の池に浸って現場検証を行う見慣れたスーツ姿の刑事さんを見つけた。
無愛想なようでいて、いつも自分を気にかけてくれる脱力の刑事。

ふと。脳裏にXと初めて接触した時に見た、血まみれの部屋が蘇る。
視線に気が付いたのか、刑事・・笹塚さんは振り返って重い溜め息をつくと
ゆるゆると立ち上がりこちらに近付いて来た。

気遣うように肩に置かれた手に何故か違和感を覚える。

「助手は?」
煙草でも探しているのかスーツのポケットを探りながら笹塚さんは言って

「あ、今、証拠の確認してます。」
場違いな笑顔で意味もなく手を振って答える私に
笹塚さんは眉をしかめ
顔の前にマヌケに広げられた私の手を掴むと、
グイグイと凄惨な現場から引きずり出した。

「ちょっと!笹塚さんっっ!?どうしたんですか!?」
最近はまた現場に居ても見逃してくれるようになってたのにっ

以前追い払われた時だって
こんな強引に引き出されたりした事なんてなかった。

そもそも、この人が私に触れる事自体がなかったのだから
普段と違う雰囲気に困惑してしまう。

問いかけを無視する笹塚さんに手を引かれ、エレベーターホールまで辿り着く。

「笹塚さんっっ!痛いっっ!!」
ハッとしたように立ち止まって
笹塚さんはまた目を反らした。
なに・・?
掴まれた手が冷たい。
「あ・・・。悪い・・・。」

そう言ってゆっくりと私の手を離すと
笹塚さんは背中を向けてしまう。。
その横顔がいつもより更に青白く見えて。

うーん。心配になって来た・・。

「笹塚さん・・・。大丈夫ですか・・・?」
私の言葉に驚いたように目を丸くして振り向いた笹塚さんの顔は

一瞬すごく寂しそうな色を映したように見えたけど。

すぐにいつものような緩い笑顔に戻って
私の短い金髪をクシャクシャと撫でてくれた。

ポーン

響くエレベーターの到着音に我に返る。

開く扉の中から現れたのは、ドS魔人の刺すような笑顔だった。

「お待たせしました先生!
証拠の方は全て出揃いましたのでよろしくお願いします!」

ネウロは瞬時に助手モードに切り換えてエレベーターから降りてきた。

怖っ!何、さっきの笑顔!!
魔人の思惑にドン引きする私の頭を
いつもの如く笹塚さんから見えないように
カギヅメでガッシリと掴み込んで
ネウロは足早に事件現場に舞い戻ろうとした。
が。その背中を笹塚さんの低い声が呼び止める。

「関係者は別室に待機させてある。
わざわざ現場に戻る必要はない。
・・よっぽど死体の側に居るのが好みなら話は別だがな・・」

ゆっくりと笹塚さんを振り返るネウロの目が殺意を帯ているような気がするのは
きっと気のせいじゃないだろう。
プレッシャーが肌に痛い。

・・にしてもネウロはいつもの事として
笹塚さんも今日は一体どうしちゃったんだろう。
なんか怒ってるのかな・・?
いつも以上に目も座っているような気がするし・・。
二人の産み出すピリピリとした空気は非常に体に悪そうだ。
いや。むしろ今わし掴みにされてること事態が激しく不健康ではあると思うんだけども。
冷や汗が背中を伝って気持ち悪い。
そもそも掴まれて痛む頭もそろそろ限界だったりしていて
朦朧とする意識を手放しちゃおうかなーとか諦めの境地に差し掛かっていた丁度その時の事。

「いたいた〜!先輩〜早く来ないから
関係者の皆さん帰りたいって騒いじゃって大変なんですよ〜」

緊張をぶち壊して笹塚さんの後輩、石垣さんが颯爽と現れた。
普段空気が読めないとか言われていても
今ばかりは何か救われたような気がして私は心から感謝する。

途端、掴まれていた私の頭は解放されて
ネウロは脱ぎかけた猫の皮を再び被って向き直り
「で、皆さんは何処にいらっしゃるんですか」
食事を運んで来たウエイターに
にっこりと愛らしい微笑みを向けたのだった。


部屋が変わった事で事件の検証が少し面倒になったみたいだけど
いつものように無事(ネウロが)事件を解き明かして謎を食べ終えると
その帰路で私は重い溜め息をついて小さく呟いた。

「はぁ〜・・。たまには石垣さんも頼りになるもんだね〜」
ガシッッ
再び訪れる頭の痛み。
「いたたたた!ちょっとネウロ!!痛いよ!!」
「痛くしているのだから当たり前だろう。
貴様はそんな事も分からないほど退化したのか。」

呟きを不満と取られたのか、ネウロはまた私の頭をわし掴みにして得意の無表情で口だけ笑っている。
それでもそれなりの食事にまずまず満足したからか
魔人はすぐに私を地面に下ろすと、スネたように目を反らした。

「貴様は何故あの男に近付くのだ。」

言葉の意図が読めずに頭上でハテナを浮かべる私をネウロが目を細めて一別した。

記憶を辿って。
「・・・・笹塚さんの事・・?」
他に思い当たる節もなく答えて
ついさっきの痛い空気を思い出す。
(いや。実際痛かったけど・・。)

「あいつは我輩の食事の邪魔をした。
助手としての我輩も警戒しているようだしな。
何より豆腐頭。
あいつはまた懲りずに貴様を事件から引き離そうとしているだろう。」

ネウロはそう言うとテクテクと一人街灯に登り
「ヤコ。あの男には近付くな。」
私を見据える緑をギラリと光らせる。

「近付くなって言っても・・。
事件があったら会っちゃうんじゃないの・・?」
見上げる私を魔人は鼻で笑って。
「では話すな。
事件の事は我輩が調べてやる。」
ネウロの言葉に眉を潜める私に構うことなく

「解ったな。」
魔人はそう言い残すと夜の街に飛び立っていった。


また置いてかれちゃったか・・。
もう慣れたからさして気にもしてはいないけど。
ブラブラと歩きながら
ふと。今日の笹塚さんの態度が頭をよぎる。

握られた冷たい手と。
反らされた視線。

笹塚さんが見せた一瞬の寂しげな顔。

血まみれの部屋で見た彼の背中はいつもより少し小さく見えて。

あぁだから思い出したんだ。
あの箱の事を。

あの・・
夜の事を。

そう気付くと少し、

胸が痛くなった。

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あきゅろす。
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