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●§探偵事務所§●
オウム達の海辺3
カチカチと
やたらと大きな音が気に障る。

魔人はギシリとイスを軋ませると
壁にかけられた時計に
トロイの上に転がる金属片を黒手袋の指でつまみ込んで
弾いた。


ピシリ

と小さな音をたてて中心を射抜かれた時計のガラスは
一瞬で色を変え
クモの巣のようなヒビを走らせて
崩れる事もなく天頂を指し示す針のみを黙らせる。

更なる沈黙に包まれた事務所の中には
魔人の鼻を鳴らす音だけがそよいで
それが過ぎ去ればまた寒々しい静寂が座り込む。

ただ薄汚れた天井を眺めて何をする訳でもなく
退屈そうに椅子に伸びる魔人。

意味もなくトロイに転がる多数の金属片を
握っては溢し、握っては溢す事をムヤミやたらと繰り返している。

見かねたアカネが壁からすり抜けて揺れると
ネウロはチロリとアカネに目を投げただけで
またジャラジャラと欠片達をイジリ続ける。

その姿はまるで我慢を強いられた子供そのもので。


『なにも壊さなくても良かったんじゃないですか?』


アカネからの問掛けにもネウロは面〈オモテ〉を上げない。

魔人から与えられた魔界電池を通しての
意識同士の疎通であるがゆえに
特に顔を上げる必要はないと言うのもあるが。


「何を気にする事がある。
すぐにまた作れば良いではないか。」


言いながら。
魔人がソレを組み立てる様子は微塵もなく。


『いくら仕事がないからと言って
それじゃ弥子ちゃんとも連絡が取れないじゃないですか。』


「あった所で連絡は着かん。
あの虫め携帯の電源を切りおったのだ」


あからさまにスネた魔人の言葉に
アカネはトロイの上に散らばる
昨日まではネウロの携帯電話だった物の残骸に
同情の溜め息を漏した。

今までは弥子が携帯の電源を切ったとしても
魔人が迎えに(拉致りに)行けば良いだけの話だったのだ。

しかし弥子は今は遠い南の島にいる。
自分から送り出した手前。
わざわざ出向いて行くのはどこかシャクだとでも思っているのだろうが。


『開発していない島もあるみたいですから
通じないのはきっと今日だけですよ。』


慰めるアカネの言葉も聞き流し
ネウロはただただ携帯の欠片をいじっている。


と。ドアの外から重い振動とワイヤーの擦れる音が響いて
しばらくして探偵事務所の前でガコンとエレベーターが止まると
品の無い足音がズカズカと事務所の戸を開けて入ってきた。


「おぃバケモン。お得な裏情報持って来てやったぜぇー。」


段ボールを肩の上に担ぎ
いつものようにダルそうに声をかけた吾代を
魔人の双眸が突き刺すように睨みつけていて


「っっ!!?なんだテメェっっ!!?その眼はっ!!
殺る気かっっ!!??」


強い殺気を感じて怯む吾代に
魔人が口を開く。


「吾代。携帯を寄越せ。」


「はぁ?」


唐突な言葉に顔をしかめる吾代に魔人はかもしだす殺気を更に強めて。

担がれた段ボールが大きな音を立てて床に落ち
中の書類が雪崩れのように広がるのにも構わずに
吾代は書類を踏みつけ一歩後じさる。


「小卒の貴様には難しかったか。
我輩は貴様の携帯電話を寄越せと言ったのだ。」


「それって人にモノ頼む態度じゃねぇだろッオィィッ!!!」


反論をしつつも半泣きの吾代が
今にも喰らいついて来そうな勢いで間を詰めるネウロに
自分のよれたズボンのポケットから取りだした携帯を放り投げると

魔人は無表情でそれを掴み取り
掴み取った姿勢のまま凄まじい早さで携帯を開いて
テンキーを見ることすらせずに番号を打ち込み
通話ボタンを押した。


『おかけになった電話は
現在電波が届かない所にあるか電源が入っていないためかかりません。』



















グジュョッッ


本日2台目の尊い携帯が犠牲になった。

再びネウロの手から金属片が舞い落ちるのを
吾代はあんぐりと口を開けたまま目を丸め立ち尽くして。


「ちくしょー!!!テメーそんなに気になんなら一緒に行けば良かっただろーが!!!
やつあたりしてんじゃねーぞ!バーろぉーー!!!」


自らの携帯の末路を目の当たりにして
泣きながら出ていく様を気にかける訳もなく
魔人は掌を開いて潰れた携帯をその場に落とすと
きびすを返してトロイに戻ろうとした。

したのだが。
その足がピタリと止まる。


「・・・何を荒れてんだあんた・・・」


背後からかけられたのは
たびたび弥子に関わってくる脱力の刑事
笹塚の声。

吾代の喚きに気を取られて
この男が事務所に入ってくるのに気付かなかった。

魔人は笹塚に聞こえぬよう小さく舌を鳴らすと
肩をすくめて笑顔を作り助手顔で振り返る。


「これは笹塚さん。何かお困りの事でもありましたか?」


あくまで爽やかに振舞ってはいるものの
その顔はいつもより素の魔人に近いもので
笹塚は眉を潜めると事務所の中をぐるりと見回した。


「・・・あぁ。・・・前の事件の事で弥子ちゃんに聞きたい事があったんだけど・・・。
・・・まだ来てないみたいだな…。」


「先生は今修学旅行中で沖縄に行かれてますので
お話なら僕が伺いますよ。
事件の事は大概記録してありますから。」


言ったネウロの言葉に
笹塚は背中を向けたまま

―――その声音を変えて。



「……なんて言った…?…今…」


振り返る刑事の瞳が
あからさまに怒りの色を帯びているのに
ネウロは思わずその眉をしかめる。


「…場合によっちゃ…あんたを…
しょっ引かせてもらう事になるんだが…」


笹塚の手が
ポケットの手錠をジャラリと鳴らすのに
ネウロの顔からは表情が消えて。


「それはまた…。どういう事で…?」


黙り込む空間に
また笹塚の時計の音が

耳障りに響いた。


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