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●§探偵事務所§●
オウム達の海辺2



沖縄から小型機に乗り換えて
降り立った場所は見たことも無い広い広い空の下だった。

まだ春だと言うのにその日差しは初夏のように強くて。

ホウ。

潮風を感じながら
思わず息が漏れた。

小さな空港から私達一行は二手に分かれてタクシーに乗り込むと
一路ホテルへと向かう。

その車内で、私は目が覚めた時からの疑問を隣に座る叶絵に問いかけてみた。


「ねぇ叶絵。私、行かないって言ってあったのにさ
何で航空券取ってあったの?
先生も特に気にしてないみたいだし…」

すると叶絵はキョトンとした目で私の方を向いて


「あんた何も聞いてなかったの?
私達も先生も、あんたが行けないって言い出すちょっと前から
助手さんにあんたが何とか行けるように手配するからよろしくって言われてたのよ?」


「えっ…!」


叶絵の言葉に私は激しく面食らってしまう。
あのドS魔人がそんな行動に出るなんて
私にはまったく想像ができなかったからだ。


「なんだ熱いな〜
助手さん弥子を喜ばせようと思って黙ってたんだねきっと…
いい所あんじゃないあんたの彼氏〜」


いやらしい顔で肩をつついてくる叶絵に


「やっ!か…彼氏とかじゃないから…!!アイツはっ…!!」


私はなぜか全力で否定しようとして
ここがタクシーの中であることを思い出し
張り上げた声をデクレッシェンドで下げていった。


「いいねぇいいねぇ若いってー。」


前方からかけられる人当たりのいいタクシーのおじさんの声に
私は自分の顔が熱くなるのを感じて
逃げ場無く赤くなった顔を窓の外へと向けると
その目にはずらりと道路沿いに植えられるサトウキビ畑が入ってきた。

おばあちゃんちとか田舎とも違うなんとも独特な南国の雰囲気に
私の心はザワザワと騒いでいく。


「すっごいキレイだね〜」


叶絵も外の景色に感嘆の声を上げて。
二人でわぁきゃあと騒ぐうちに
車はホテルへと到着したのだった。


白いコンクリでできた3階建てのホテルは
思ったより素朴なものでホテルと言うよりは宿舎と言う感じだったが
その部屋は半ば住み込みのダイバー達によって常に埋まっているらしい。

宿の裏には白い砂浜といくつかの岩場に囲まれた
宝石のように透き通るエメラルドのプライベートビーチが広がっている。

「見て見て弥子!!超ーきれいな海!!
あとで泳ぎに行こうよ!」

「…うん…」


部屋の窓から外を覗く叶絵の後ろで
小型のトランクを開けながら私は微妙な返事を返す。

トランクの中にはまっとうなお泊りセットが入っていた。
もちろん下着も。見慣れない水着も。


(これ…ネウロが詰めたのかな…)

その水着がグラビアアイドルもびっくりな露出度の高いものである事から
その想像は正しいと言うことが伺えて
私は涙ながらにトランクを閉めた。


「私今入れないんだ…。」

「そっかー残念だねー」


ごめんね叶絵。
でもこんなもん着れるかっっっ!!
あんのドS魔人めっ!!

そんな私の絶望も、その後街中で見つけた美味しすぎるパイナップルやモンキーバナナによって
至極簡単に覆されたりしたのだけど。




しかしその夜。
裏のビーチで泳ぎ疲れて眠る叶絵達の横で
ベットに寝転んだまま
天井を見つめる私の姿があった。

なぜか。
言い知れぬ不安に襲われていて。
眠れない。


(大丈夫だよ…。ネウロから送り出してくれたんだもん
何も心配することなんてないんだ…。)


そう言って目を閉じても
ザワザワと騒ぐ何かに
一向に眠気は訪れなくて。

気がつけば
窓の外はすでに白んでいた。


重だるい体を持て余しながら

私は気づいてはいなかったのだ。










この不安の正体が


一体何によるものであるのかに。

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あきゅろす。
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