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●§探偵事務所§●
鳥の刻印2
(・・・感じる。)

(この世界の謎もあと僅かだ・・・。)



空を覆う永遠の黒い黄昏に羽ばたき。
地を這う永遠の炎を眺めながら。

我輩は瘴気の風になぶられ
大きく広げた翼をひるがえした。


フワリ

荒野に佇む断崖の丘に降り立つと。
遠く響く雷鳴と叫びが耳をついて。

我輩は地面に転がる謎だった物を踏みしめると
泥のような空を見上げた。


(天上には「ヒト」が住むと言う・・)


見たことはない。
以前、魔界王が溢すのを聞いただけだ。

脆弱で愚鈍でつまらない生き物だと言う。


そこに謎があるのか。
食うに足るものであるのかは我輩には解らない。

だがこの世界の謎が遠からず尽きる事は解っていた。


(ならば我輩は見定めねばなるまい。)


偵察にわざわざ身を運ぶ必要はない。

我輩は嘴を開けると魔界777ツ道具。
『第二の心臓』を吐き出した。

唾液を振り払い産まれた我輩の分身は
我輩と同じ青い翼を広げると
こちらを振り仰ぐ。


「行け。」

我輩がその腕を掲げると分身は一声鳴いて高く高く空の渦へと飛びたって行った。







―――この分身を人間は『オウム』と呼ぶらしい―――







人通りもまばらな街のはずれ。

たいして広くない道路に面した
閑散とする雑貨屋の軒先に我輩は止まり木を与えられていた。

その上から周りを見渡す。

ここ数日で食った謎は満足とまではいかないものの
人間の産む謎が我輩の脳髄を潤すに足る存在である事を
充分証明するものとなった。

そして複雑な思考を持つ人間の謎は
以外にも魔界の単純な悪意とは違うもっと多彩な味があると言う事も解り
我輩の舌を大いに喜ばせた。

(なかなか悪くないな・・。)

しかしもう少しこの世界の情報を得たかった我輩は
しばらくはこのまま謎をツマミながら人間共の様子を窺う事としたのだ。

味の良し悪しの違いは何によって引き起こされるのか。
その原因を探り出す為でもあったが。

我輩は謎の気配がするこの雑貨屋を次の食事にと選び
この家の主人は簡単に我輩を受け入れて
今現在に至る訳だ。

どうやらこの世界でも我輩に似た形の「鳥」と言う生き物がおり

たどたどしくも言語能力を持つらしい。

店の前には色々な人間が足を止めて我輩に話しかけてきたが
面倒なので全て無視した。
人々はなんら気に掛ける様子はない。

餓鬼共はやかましく騒ぎ立てて
図々しくも我輩に手を伸ばして来る。
煩わしさに屋根の上に逃げれば
また喚き立てて方々へと散って行った。

再び下へ降り立った時。

我輩の目は道路の向かいに立つ幼女の姿を捕えて止まった。

金色に揺れる髪。

関心に見開かれた眼〈マナコ〉。

それは我輩をジッと見つめている。

しばらくは時折通る車の音だけが流れて

「弥子!」

ふいに幼女は我に返る。
近くの小さなビルから母親らしき女が叫んでいた。

「今行くからそこで待っててね!
まったく・・言うこと聞かないんだから!!」

ヤコと呼ばれた幼女はビルと我輩とを交互にみやって

ふいにこちらに満面の笑みを向けると
きびすを返して走って行った。



「・・待ってろと言われたろう・・脳なしめが・・。」

我輩が呟く間にヤコの姿は見えなくなった。




それからヤコはよく我輩を覗きに来るようになった。

最初は遠くから窺うように。

やがて少しづつ近付いて来て。

そして昨日やっと我輩の元へと辿り着いた。

(なるほど・・・。
確かにこれは愚鈍以上の生き物だ・・。)

我輩は呆れて眉を寄せ
知能も動作もナメクジ並のヤコを見下ろすとその姿を観察してみる。

ヤコの真っ直ぐな毛は胸まで流れて
絹のように美しい金糸を広げている。

白い肌は頬の部分だけ淡く色付き。
小さな唇は人肉色に艶めいていた。

近くで見るヤコの瞳は存外に大きく。
その色はまだ情報に汚染されていない透明な土の色をしている。

それは傷一つない宝玉のように輝いて
善悪すら理解しない純粋な虚無のようだ。

何も知らない瞳。


(フム・・・)


辺りには他に誰一人いない。

我輩とヤコの二人だけだ。

ヤコは我輩を見上げて嬉しそうに話しかけてくる。


「とりさん。とりさん」


その小さな手をいっぱいに伸ばして。


「とりさん。こんにちは」

我輩は鼻で笑うと


「気安く触るな。
このナメクジめが。」


言い放った言葉に
ヤコは丸い目を更に丸くした。

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