バニラシロップを一滴だけ
メイプルシュガーは小瓶に詰めて
「いーたん、ちょいこっちきて」
「ん」
「んー♪素直素直」
近付いて行くと、急にぎゅっと抱き締められた
「な、なななな」
細いけれど、確かにその両の腕はしっかりと熱を持ってぼくを繋ぎ止めてくれる
一気に顔に熱が集まるのが分かった
耳朶を優しく噛まれて、薄く開いた唇から吐息と混ざって声が漏れた
「、ひ…」
それだけじゃない
心拍数も半端じゃない位速くなっている
ドクドクドクドク
心臓の音が頭で響いて、益々この状況に酔っていく
「いーたん、」
掠れた声が耳元で響いて、それだけで体から力が抜けた
名前、呼ばれただけなのに
この体はもう溶けてしまいそうだ
少しでも零崎に応えたくて、彼の背中に腕を回して少し力を入れた
さっきよりも近くなった距離
零崎の匂いが鼻を刺激した
ああ、甘い
なんで零崎はこんなに甘い匂いなんだろう
ぼくに降り注いで、止まることを知らないんだ
どうしようもなくぼくに訴えかけてくる
今だけはぼくだけの君だから、
甘い甘い匂いに取り憑かれたぼく
ぼくを抱き締めて愛してる、と何回も囁いてくれる君
(君はいつかいなくなってしまう)(そう、ぼくは確信にも似た未来を予想していた)(ぼくらは鏡だから、だから、解るんだ)(だから)(お願いだから、この甘い匂いを忘れることが無いように、何回でも刻みつけて)
抱き締め合って、お互いに好きだと何度も確かめ合って
キスをする
零崎はいつもメイプル味のキャンデーを舐めていたから
またそれもぼくにはどうしようもなく甘すぎた
君のせいだよ
ぼくはもう、自分の力では立っていられないほどにどろどろに溶けてる
それでもぼくは、まだ足りない、と零崎に縋った
「もっと、もっともっと溶かして…壊してよ」
誰もいない放課後の教室で、ぼくらは愛を誓い合った
メイプルシュガーは小瓶に詰めて
そうしたらぼくはずっと君の甘さに縋っていられるでしょ?
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