[←back] [HOME] 140文字他SS置き場 ※CP表記の無い物は、ほぼ土銀か高銀 2011-01-28(金) 『I promise you』 12/15拍手文 ※パラレル 近⇒妙&土×○ 近藤さんが結婚した。高校時代から想い続けた女だ。入学式で出会ってからかれこれ10年以上になる。 頑固だとか、熱意だとか、一途だとか―――、兎に角、結婚式のスピーチではそんな言葉が飛び交ったのだが、当の新婦に言わせれば、しつこくて執念深くて散々だったそうだ。 つまり、俺の友人である新郎は有り体に言えば元ストーカー。 日々追い回されることに慣れきってしまっていた頃、「感覚が麻痺してたのね」と女、志村妙は苦々しく吐き捨てるように言った。 「……疲れていたのよ」 だから、一瞬生まれた隙に首を縦に振ってしまい、気付いたら薬指に見慣れぬ指輪が嵌まっていた。 近しい者なら誰でも知っている。近藤さんはいつ何時、どんな場所でも直ぐにプロポーズ出来るよう、貯金と最初に貰ったボーナス全てを注ぎ込み指輪を買って常に携帯していた。 それが事の真相。 しかし、こうやって挙式まで漕ぎ付けることが出来たんだ。 逃げようと思えば今までにいくらでも逃げられたはずの女は大人しく新婦の席に付いている。 と言うことは、女も憎からず近藤さんのことを想ってくれているのだろう。人の幸せの感じ方なんて各々様々なものだ。例え婚約から……、いやそれ以前から今日まで指一本触れさせてくれないとしても、例え暫く入籍する予定はなく夫婦別姓で、例え新婦の家に新郎が同居しても家賃を徴収された上に寝室は別々、例え新郎の部屋には簡易シャワーとトイレが設置され外からしか開閉出来ない鍵が付いていてその鍵を新婦が今後管理すると話していたにしろ、そして例えその新郎に多額の保険金がかけられた……、という噂を耳にしたにしろ、 人の幸せの感じ方なんて各々様々なものなんだな―――。 ひな壇では近藤さんが喜びにむせび泣き、新婦がお色直しで席を立った。 粛々と恙無く披露宴は推し進められる。 「……なあ」 俺はテーブルの下、右隣に座る男の手を強く握った。 「ああ?」 「ブーケ、おめえに投げてくれるよう頼んどいた」 一拍ほどののち、「はい?」と素っ頓狂な声を上げ、生来のあちこちと気まぐれに跳ねた銀色の髪を揺らし男が弾かれたかのように俺を見た。掛けた眼鏡の向こうで色素の薄い赤味がかった瞳が零れんばかりに見開かれている。 「俺は初めておめえに会った日から気持ちは全然変わってねえから」 空いた手で、左のポケットを探り指先に触れた『それ』をそっと摘まんで取り出した。 「おめえもそろそろ腹を括りな―――、銀八」 握っていた男の手を引き寄せ、その薬指に指輪を嵌める。 「えっ……、なにこれ、土方くん?」 七つ年が離れていようと、況してここに集う列席者殆どの高校三年時の担任であろうと、そして同じ性別を持つ男であろうと、紆余曲折を経て俺たちは恋人となり、今でも付き合っている。 「俺だって近藤さんと同じく初のボーナスでこれ買ってたんだよ」 口を噤み、困ったような顔をして俯きかけた男の手にもう一つ同じ物を握らせる。 「ほら」 「……え?」 「おめえも俺に嵌めてくれ」 数瞬、たっぷりと迷った末、男は漸く覚悟を決めたらしい。一度、深く瞬きをしてから宝玉のような瞳に俺を映し、差し出した俺の指にそっと指輪を通した。 「死がふたりを分かつまで、銀八だけを愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」 手を取り合ったまま、赤くなった耳元に唇を寄せそう囁くと、男は「ばかやろう」と言うつれない言葉の続きに「俺もだ」と言い継いでから強く俺の手を握り返して来た。 <完> [*最近][過去#] [戻る] |