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日記
2020-02-05(水)
上には上

恋とはどんなものかしら

 俺が初めて恋に撃ちぬかれた瞬間は、世界が一瞬でバラ色に輝いた。
 そして生まれて初めて、鼻から生ぬるい生命の温もりが滴り落ちるのを感じた。

***

「―――あれが、俺と笠原の運命の出会いだった」
「今思い出しても笑うわ。風紀委員長の任命式でいきなり鼻血だす生徒会長とか前代未聞過ぎて」
「いやあれは会長の斬新過ぎる自己紹介でしょ?次の日から薔薇の君とか呼ばれてるし…」
「薔薇wwww鼻血だってーのw」
「ちょっと男子ぃ〜そうやって会長弄るのヤメたげなさいよぉ〜」
「お前も男子だろうがwww」

 今日も生徒会の面々はご機嫌である。
 いつもなら既に俺の怒声が響いている時間だが、生憎バカと付き合う気分でもない。そんな俺の様子に気がついたのか、爆笑していた会計が此方に目を向けた。

「あれ?会長今日はやけにご機嫌だね」
「ふふふふ、わかるか。今朝笠原と一緒に食事をとった」
「マジで!」
「これがその時に笠原が使用していた割り箸だ」
「マジか!!」

 でたよ!!!と叫ぶ会計はいつも通りのリアクションである。
 今朝はいつもよりやや早めに食堂へ行ったのが功を奏したのだろう、丁度笠原が食事を終えたところだった。
「珍しく早いな」
「うるせぇ(今日も格好良いな!さすが俺の笠原!)食い終ったならとっとと行けよ(使用済みの割り箸は俺が責任をもって持ち帰る)」
 と、仲良く挨拶をしてから俺は笠原が座っていた席にすぐさま腰を下ろした。秒で座ったので、まだほんのり温かい椅子の所為でちょっと勃ちそうになったが、横から保存用のジップロックを差し出す親衛隊をガン見する事で鎮静化を図った。

「犯罪だね」
「犯罪だな」
「馬鹿いえ、そんなわけあるか」
「馬鹿は貴方ですよ!このバカチンが―――!!」
「ぐふっ!!?」

 干からびた茄子のような顔になっていた副会長の拳が、俺の頬に炸裂した。

「貴方ね!ちよっと顔と頭とスタイルと家柄が良いと思って調子乗ってますけど、現状ただのストーカーですからね!」
「べた褒めじゃねーか」
「最後!一番最後をちゃんと聞きなさい!」

 再び繰り出された鉄の拳をひらりとかわせば、菩薩の様だと言われている美貌が鬼の形相に変わる。事態を察した会計がすかさず副会長を羽交い締めにすると、力では敵わないと思ったのか、息を吐いて肩の力を抜いて俺を見上げた。

「もう、つまらないストーキングは止めて、きっちり告白したらいいじゃないですか」
「…………フラれたらどうする」
「薔薇の君がフラれるんです?」
「おまえのそれはディスりだって知ってるんだぞ」
「会長!盛大にぶち当たって砕けて散ってくださいよ!僕も応援しますからっ」
「散らねー!!」

 ちょいちょい鬱陶しい書記を睨んだけれど、内心それもいいかな、なんて思ってしまった。
 片思いは俺の心を豊かにしてくれるが、時折胸が締めつけられるように痛む。
 そうだな。明日、笠原に告白しよう。
 98%上手くいくだろうが、もし、断られたら。その時は………再来月また告ることにしよう。

***

「あ、笠原、俺と付き合ってくれ」

 役員全員で昼食を取りに食堂へ向かえば、風紀の集団とばったり出くわした。丁度良かったので笠原に告白すれば、一瞬で食堂内が静まりかえった。

「ちょおおおお何で今!!?」
「黙りなさいっ、この際大多数の前で結果がわかった方が対処しやすいでしょ」
「委員長の瞳孔開いてない?」
「しっ!」

 後ろの役員達が煩いが、無視して笠原だけを視界に入れる。いつもより目が大きい。格好良い。好きだ。

「格好良くて好きなのか?」
「あ声にでてた」

 笠原が一歩近づいた事で、俺達の距離が更に縮む。もう目と鼻の先だ。あと少しでキス出来そうだな、と思った俺の思考も伝わったのだろうか、笠原がふっと微笑んだ。

「気持ちは嬉しいが―――――俺達は、もうとっくに恋人同士だぞ」


 な ん と ! 俺と笠原はもう付き合っていた。





 それから、なぜか周りを固めていた風紀委員たちに泣いて礼を言われたり謝られたりと訳が分からないまま、良い笑顔の笠原に食堂から連れ出された。
 遠くで副会長の叫びが聞こえた気もしたが、まぁ明日でも話を聞けばいいだろう。

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