創作日誌
2013-10-20(日)
レインボーイミーツガール

「僕と涼宮さんの関係のために、長門さんと彼が上手く行くように暗躍していたらなんだか長門さんといい感じになってしまっていたという内容の本はまだですか?」

「あ、あのぉ……わたしも一応SOS団の一員なんですけど……」

「おや、これは朝比奈さん。ご卒業おめでとうございます」

「ま、まだ半年以上残ってますっ!」

「そうでしたか? ……ふふっ、まあどちらにしても余り現状に変わりは有りませんからいいのではないでしょうか」

「ふ、ふえーん! キョンくーん!」

「あれ? 朝比奈さん、何しに学校へ来たんですか?」

「僕は思うのですよ。この作品においての結末はあなたと涼宮さんの恋愛でしかないのだろうと」

「……スイーツ」

「長門、そう嘲ってやるな。ラノベにおける不文律、黄金パターンってヤツで概ね古泉の言には俺も同意だ」

「ええ。と言いますか、僕としては涼宮さんとかぶっちゃけ無理ですし。彼女、重い」

「その点、長門さんならそこそこさばけた関係で付き合っていけるかなって」

「古泉、お前さっきからちょっと本音過ぎる」

「まあ、楽屋裏ですし」

「大体、長門。お前はどうなんだ。こんな奴が彼氏で、それでお前はいいのか?」

「おやおや」

「いい。……男などアクセサリーでしかない」

「長門ぉっ!?」

「ただしイケメンに限る、と主流派は判断した」

「ふう、美形設定で助かりました」

「宇宙の真理だったんだな、顔面偏差値ってのは」

「……あ、あのぉ」

「ああ、朝比奈さん。まだ居たんですか」

「ず、ずっとここに居ましたからぁっ!」

「居てもいなくても同じなので存在を意識から消していました」

「そういえば、結局朝比奈さんっているんですか?」

「だ、だからさっきからここに居ます! 古泉くん、あんまりわたしを馬鹿に……」

「いや、分からん」

「キョ、キョンくんまでっ!? ここ! ここですよー!」

「不要と情報統合思念体は判断した」

「ふえっ!?」

「ああ、やはり要らなかったんですね」

「朝比奈みくるの存在価値とは強いて挙げれば百合要員」

「あー、キマシタワーってヤツか。俺、あんまりアレ得意じゃないんだけど」

「右に同じですね。どうもこう、自分が妄想の舞台に出て来ないものでは勃ちが悪いんですよ」

「た、たち……?」

「古泉、少し黙れ。生々しい」

「これは失礼」

「で、何の話だったでしょうか?」

「……恋バナ」

「恋バナっておま……!? はあ、長門もこう、初期に比べてスラングが達者になったよな」

「もうほとんど違和感ないですよね」

「ですねー。長門さんはどんどん可愛くなられています」

「……おや?」

「……あれ? 朝比奈さん、まだ居たんですか?」

「酷いです、キョンくん、古泉くん! わたしも恋バナに混ぜてくださいよう!!」

「え?」

「いえ、ですが……」

「はあ」

「なんですか、なんなんですか、その反応!?」

「古泉、言ってやれ」

「分かりました。いいですか? 朝比奈さん、あなたには既に鶴屋さんという不動の相方がいらっしゃるのです」

「……キマシタワー」

「長門さん、そのボソッと呟くの止めてください!」

「そういう訳で、朝比奈さんに関してはもう恋バナの成立する余地が残っていないんですよ。すいません」

「ご卒業おめでとうございます。鶴屋さんとお幸せに」

「ちょっと待って!?」

「巨乳は晩年垂れますしね」

「同意」

「同意」

「わ、わたしと鶴屋さんはなんでもありませんよっ!?」

「……み、みくる……?」

「お、鶴屋さん」

「素晴らしいタイミングですね。流石と言うべきでしょうか」

「……情報操作は得意」

「なるほど、長門さんの仕業でしたか」

「みくるの、みくるの阿呆ーっ!!」

「ああっ、鶴屋さーんっ?」

「……修羅場」

「俺の金持ち先輩と未来人が修羅場過ぎる」

「余り鶴屋さんを悪く言わないで下さいね。彼女、機関のスポンサーのお嬢さんですから」

「全ては金か」

「お金です。学生のあなたにはいまいちピンと来ないかも知れませんが」

「愛が全てじゃないんだな」

「愛はお金で買えますから」

「そうか」

「鶴屋さーん!」

「まあ、真剣に朝比奈さんとのフラグを考察してみますと」

「出会って間も無い頃に俺、大きな方の朝比奈さんにフラグぽっきり折られてるんだよな……」

「ああ、わたしと余り仲良くしないで、という例のアレですね」

「アレだ」

「ちなみに大きいとは何がでしょうか」

「そうだな……スケールかな」

「彼女と愛を育むのはタイムパラドックス的な問題も含みますし、止めておいた方が無難だと僕は考えますが」

「つーか、朝比奈さんと仲良くすると途端にハルヒがな……」

「ああ……ああ……。なんですか、それは愚痴に見せかけた惚気ですか? そんなものは日頃で十二分なんですが、僕たちは」

「同意」

「なら、お前が替わるか古泉?」

「冗談じゃない」

「おい、喋り方」

「いいですか? 某SSに付いた感想が非常に的を射た表現だったので流用させて頂きますが『核弾頭に恋なんて出来るか』」

「長門だってそういう意味じゃ似たようなモンだろ」

「……統合思念体に有機情報連結の解除を申請する」

「個体名、朝倉涼子の有機情報連結を解除した」

「何やってんだ、お前は」

「……八つ当たり?」

「八つ当たりとかキャラじゃないだろ、お前も」

「いいえ、この長門さんで正解なんです」

「なん……だと……っ!?」

「長門さんは原作中で少しづつしかし着実に人間臭くなっているのです」

「……そう」

「なるほど、つまり成長性Sな」

「ええ。誰かの死をトリガーとしてその才能は一気に開花す……おっと、この言い方だと死ぬのは十中八九僕ですね。止めておきましょう」

「……有望株。それが、私」

「その通りです、長門さん。だから僕と付き合って下さい」

「お前の告白には誠意の欠片も無いよな、実際」

「なら、俺は佐々木でいいや」

「ああ、その線は有りません、残念ですが」

「マジか!」

「大マジですよ。考えてもみて下さい。どこの世界に九巻まで来て初めて出て来たキャラと結ばれる主人公が居ますか?」

「げ、現実とか」

「申し訳ありません、ここは二次元です」

「オウ、レインボーガール」

「二次元とは現実と違い、極めて理想的でかつ童貞の夢を壊さないように出来ているのです。以上、あなたのヒロインは一巻から出て来ているSOS団三人娘の誰かですよ。機関が保証します」

「……それって実質ハルヒ一択じゃねえか」

「ですから最初から申しているではありませんか」

「……スイーツ」

「涼宮さん、良いではありませんか。きっと恋仲になれば尽くしてくれるでしょうし、結婚すれば良妻賢母ですよ」

「まあ、そりゃそうなんだが……アイツの場合『尽くす』に手抜きが無い気がするんだよ」

「それは……いえ、僕が彼女を敬遠したのもそこが理由ですが」

「正直、疲れる」

「ですね」

「涼宮ハルヒは疲労回復にも効果が有ると思念体は判断した」

「温泉の効能みたいだよな、その言い方」

「まあ、間違ってはいないでしょう。日々の疲れを癒す事に掛けても、恐らく彼女は全力です」

「そんなんだからエロ同人がいまだに出るんだよ」

「おっと、問題発言ですね」

「楽屋裏だからな」

「結局、アイツと居ると日々是全力を強要されちまうのが最大のネックなんだよなあ……」

「馬車馬のように遊び回されますよ。良かったですね、まず間違いなく『楽しかった』って言って大往生です、貴方は」

「俺の性格は知ってるだろ?」

「案外、付き合いが良い辺りですか?」

「くっ、言い返せん……」

「正直、あなたが涼宮さんを本気で重荷に感じているのならば、何度となく彼女と縁を切る機会は有ったはずなのですよ」

「……そうだな」

「……それについては謝罪する」

「おや、長門さんに飛び火しましたか」

「過去、私は彼に選択を強制した」

「いや、それはもう済んだ事だから、気にすんなよ」

「……ありがとう」

「こっちこそ、その、なんだ……悪かった」

「甘酸っぱい青春の匂いがします。そういうのは僕の居ない場所でやって貰えませんか?」

「今のお前の一言でその匂いとやらは台無しになった訳だが」

「……青春って何?」

「また難しい質問ですね、長門さん」

「実際、俺にもよく分からん」

「……ふむ、分かりました。では一つ、僕とデートしましょう、長門さん」

「了解した」

「頼むからそういうの俺の居ない所でやってくんねえ?」

「貴方にそれを言う権利は有りませんよ」

「……同意」

「俺はそこまでハルヒとラブコメしてたつもりはないんだけどな」

「その発言がもうアウトです」

「いや、そんなことは……」

「少なからず涼宮さんと部室で青春していた(隠語)という自覚が無ければ、ラブコメなんて単語がそもそも出ては来ませんよ」

「……情報統合思念体に私の権限の一部制限解除を申請した。エマージェンシーモード」

「ほら、長門さんも怒っています」

「……す、すまん」

「はあ……貴方という方は。老婆心ながら言わせて頂きますと、涼宮さんへの気持ちに自覚が有りながらそれを決して直視しようとしないのはそれは最早病気の域に達していますよ」

「お前にだけは言われたくない」

「……私がモテないのはどう考えても涼宮ハルヒが悪い」

「おい、待て! 早まるな、長門!」


「SOS団男子は二人とも涼宮ハルヒに好意を抱いている」

「そんな事は」

「そんな事は有りません、長門さん。僕のそれは既に過去であり、若気の至りというものでして」

「否定が必死過ぎるだろ、お前も」

「そうは言いましても正直貴方と涼宮さんの間に僕の入る余地が有りません死ね」

「古泉!?」

「ああ、これは失礼。うっかり本音が漏れてしまいました」

「お前、実は俺のこと嫌いだろ」

「滅相も無い。事実無根の名誉毀損で訴えますよ」

「だから、一々否定が必死過ぎるんだよ。逆にちょっと引くわ」

「僕はこれでも感謝しているんです、貴方に」

「感謝している相手に死ねとは普通言えん」

「これは信頼の裏返しというものでして。貴方なら冗談として取ってくれるであろうという……」

「解説されるとそれはそれでモヤモヤした気分になるな」

「しかし、本当に貴方には感謝しているのですよ」

「ほう」

「お陰で涼宮さんに転ばないで済みました。ありがとうございます」

「……ちょっと待て」

「なんですか?」

「やっぱりお前、ハルヒのことを俺に押し付けようとしてんじゃねえか」

「ええ、そうですよ」

「馬脚を現すってレベルじゃない。あっさり肯定しやがった」

「だって、考えてもみて下さいよ。彼女の恋人となった方の双肩には世界の平和が圧し掛かるのです。普通なら圧死でしょう」

「言い得て妙だな」

「ふふっ、流石にこれは貴方だって否定出来ませんよね」

「あまりその辺りを深く考えるとハルヒと普通に付き合えなくなりそうだから脳裏から追い出そうと努力している節は無くも無い」

「貴方らしい。そしてそれを実行出来るのが貴方でなければならなかった理由なのでしょう」

「おい、俺の間違いじゃなければ無神経と馬鹿にされているように聞こえるんだが」

「いいえ? 褒めていますよ。ねえ、長門さん」

「……判断を保留」

「なるほど、この辺りはまだまだ長門さんには難しいようですね」

「あなた達有機体は私たちと違い、物事を不確定にしておく癖が有る」

「仰る通りです」

「恋愛なんてその筆頭みたいなモンだろ。長門には少し早いんじゃないのか?」

「なんですか? 自分が涼宮さんと上手くいくと分かっているから、余裕ですか?」

「あのなあ……大体、古泉。お前はどうして長門狙いなんだよ」

「本人の目の前でそれを聞きますか」

「……私も知りたい」

「まあ……ですよね」

「言い難いのですが……正直、消去法です」

「楽屋裏だからってぶっちゃけ過ぎんだろ、お前」

「……いい。楽しめている」

「まあ、長門がそう言うんなら……いいのか?」

「……いい」

「いいですか。少し考えれば分かるでしょうが、僕には他の選択肢が無いのです」

「選択肢呼ばわりとか……」

「……いい」

「涼宮さんは貴方のものですし」

「違う!」

「朝比奈さんは先ほども申し上げました通り関係を持つには適さない方です」

「おい、無視か。ハルヒは別に俺のものって訳じゃ……」

「では後残っている女性を挙げてみましょうか。佐々木さん、阪中さん、橘さん、森さん……ええと、他に誰か居ましたか?」

「周防とか朝倉とか喜緑さんとかか」

「宇宙人なんて全部長門さんの下位互換ですよ」

「また随分バッサリいきやがった」

「……同意」

「ミヨキチさんですとか貴方の妹さんですとか、他にも僕が思い出せない女性がいらっしゃるかも知れませんが」

「おい、テメエ何さらっと人の妹を候補に入れてやがんだ!」

「ですが、僕こと古泉一樹は一応一巻から出て来ている準主役キャラなのです」

「お、おう……そうだな」

「その辺のぽっと出が僕と釣り合う訳ないじゃないですか」

「そういうもんなのか?」

「僕は言いましたね、ラノベには不文律が有ると。そういうものなのです」

「お約束って面倒臭いんだな」

「となると、まあ、長門さんで妥協しておくのが一番軟着陸だろう、と。これが機関の見解です」

「何やってんだ、暇過ぎんだろ、機関」

「長門さんも同様です。僕などで恐縮ですが……」

「……分かった、妥協する」

「ありがとうございます。これで僕らは晴れてカップルですよ」

「恋愛って何だっけな?」

「貴方も僕らを見習って早く涼宮さんで妥協して下さい。正直、そろそろ面倒臭いんですよ、付かず離れずとか」

「……同意」

「嫌だよ! 俺はそんな打算塗れのスタートだけは切りたくない!」

「ふうむ……では長門さん、結婚とは何でしょう?」

「……妥協と納得」

「正に然り、その通りです」

「止めろ!」

「いいじゃないですか、涼宮さん」

「古泉お前……散々こき下ろしてたその口で今更何を言っても俺の心には届かないからな」

「プールの時にしっかり確認したでしょう。素晴らしいプロポーションですよ」

「古泉、俺、なんか……うん、頑張ってみるよ」

「ええ、その意気です」

「……貧乳はステータス」

「……希少価値」

「大丈夫です、長門さん。僕は女性は顔だと思っていますから」

「……興味深い」

「心が大事だとか言っているのは本音で喋ることの出来ない臆病者ですよ。僕は違います。可愛いは顔です。そう言えるでしょう」

「奥ゆかしさは日本人の美徳だと思っていたんだが」

「……美形は宇宙の真理」

「では、長門さん。手始めに今から一緒に下校しませんか」

「……ユニーク」

「イエスかノーかくらい分かる返答をしてやれ、長門」

「貴方たち有機生命体の真似をしてみた。……変?」

「いえ、それもまた貴女の魅力かと」

「……なんだかなあ……あの二人結局上手く行きそうなのが釈然としねえ」


「待たせたわね!」

「……待ってねえよ」

「あれ? キョンだけ? 古泉くんは? 有希は?」

「とっくに帰った」

「ふうん……ま、いいわ。で、アンタはなんで一緒に帰らなかったの?」

「一緒に帰れるような雰囲気じゃなかっただけだ」

「……あっそう」

「待ってた訳じゃ、ないからな」

「……そ」

「ん? 一緒に帰った? 古泉くんと有希が? ふーん、へえー、そう……」

「楽しそうだな。まあ、お前の想像で強ち間違っちゃいない。お試し期間って感じだ」

「うんうん、なんか青春って感じだし、美男美女だから特別に許可を出すわ!」

「結局お前も最後は顔か。後、お前の許可は要らんだろ」

「別に、アタシは顔で選ばないわよ? ただ、美男美女のカップルは見ていて納得出来るってだけ」

「凸凹だとモヤモヤするよな。それは俺にも分かる」

「……アンタは?」

「は? いや、何を聞いてるのかが分からん。文法に則って喋ってくれるか」

「だーかーら、アンタは顔で選ぶのかって聞いてんの!」

「……難しいな」

「何よ、ハッキリしないわね」

「いや、ほらな。顔じゃないって格好付けたい俺も居るが、それでもやっぱり付き合うなら好みの顔が良いって俺も居る訳で」

「ま、そりゃそっか」

「だからさ」

「何よ?」

「お前はどっちって言われた方が嬉しいんだ、ハルヒ?」

「……はっ!? な、な!!」
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