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長編V
2007-12-13(木)
comnicabile4

逆転



翌日の休み時間、応接室で仕事をしていた雲雀のところに客が来た。ノックもせずにドアを開け、遠慮無しに入室する。

「出てってくれる。ムカツクから」「話がある」
「聞く気なんて無いよ。それよりも君の主人を連れて来て欲しいものだね」

応接室に来たのは獄寺だった。
雲雀はソファから立ち上がり、トンファーを構えながらそう言う。

「10代目が家に帰らないのは…テメェの所に行ってるからか?」
「だから何。咬み殺すよ」
「ヤロゥ…」

互いに武器を構え、今にも戦いになりそうだ。だが次の来客により、互いにそちらを見る。

「…何してんの」

入り口には、呆れたような顔をした綱吉がいた。その後ろには三人分の教科書を持った山本がいる。獄寺はすぐに構えていたダイナマイトをしまい、綱吉に駆け寄った。

「10代目!どうしてここへ…」
「獄寺君が戻ってくるの遅いから…次移動教室だよ?」
「10代目…感激っス!捜してくれたんですね!!」
「ちょっと。僕の目の前で群れないでくれる」

雲雀は構えていたトンファーを握り直し、今にもそれを振り回しそうである。そんな雲雀に対し、獄寺と山本は綱吉をかばうように前に出た。

「へぇ、そんなに咬み殺されたいの」
「獄寺君、山本。授業遅れちゃうよ」

険悪な雰囲気の三人に、綱吉は普段通りにそう言って歩き出した。綱吉のその態度に一瞬呆気に取られるが、獄寺と山本は慌ててそれに続いた。

「あ、お待ちください10代目!」
「置いてくなよツナ〜」

残された雲雀は不愉快そうに三人を睨み、開けたままにされたドアを静かに閉めた。
次の授業中、自習になったため綱吉は獄寺の隣に座った。その獄寺は物凄く嬉しそうに笑っている。

「ねぇ獄寺君。ヒバリさんに何の用だったの?」
「え、いや、たいした事じゃないっスよ」
「獄寺君でもオレに隠し事するんだ…」

少し声のトーンを落としてみれば、獄寺は慌てて謝る。そしてどこか恥ずかしそうに目線を泳がせながら打ち明け始めた。

「えと…ただ、10代目が登下校あの野郎と一緒だったから…なんか、脅されてたりしてんじゃないかって…」
「ヒバリさんが?」
「いえ!10代目が、です」
「心配しないで獄寺君。乱暴なことはされてないから」
「ですが…」
「大丈夫だよ。ヒバリさん家のベッド寝心地良いから泊まらせてもらってるだけなんだ」
「それなら、オレの所でも良いじゃないっすか…」
「…でも獄寺君、何かと今後のファミリーについて話し出すから眠れないんだよ」
「…スイマセン」

しゅん…と頷垂れる獄寺に、綱吉は内心謝った。

(本当はそんな理由じゃないんだけど…)

しかし真実を言おうものなら、この忠実な犬は黙ってはいないだろう。暴れるかショックで風化するか。どちらにしろろくな結果ではない。

「まあでも、10代目がご自分で決めたことならオレはこれ以上何も言わないっス。あ、もし危ない目に合いそうだったらすぐに叫んでください!飛んで行きますよ、オレ」
「…はは、ありがとう」

張り切る獄寺に綱吉はいつもの苦笑で答えるのだった。




その日綱吉は、登下校一緒にいられないならせめてお昼くらいはと獄寺に迫られ、応接室には行かなかった。
そして放課後、教室まで迎えに来た雲雀は見るからに機嫌が悪そうだ。

「ほら、帰るよ」

その場にいる全員に凝視されながら雲雀は綱吉の分の鞄を持ち、綱吉の手を引いて足早に学校を出た。少し歩いたところで、雲雀は足を止める。綱吉を振り向き、鞄を持っていない方の左手を差し伸べて抱き寄せた。

「…恭弥、どうし…」
「何でお昼に来なかったの」

何かと思えば、それで機嫌が悪かったらしい。道端というのもあってか雲雀はすぐに綱吉を離した。

「何でって、獄寺君や山本と弁当食べたから…」
「君は、僕の気持ち知っててそんな事するんだ」
「そんなんじゃない。獄寺君がせめて昼食ぐらいは一緒が良いって…恭弥とは他でも一緒にいられるから、昼食の時は獄寺君達を選んだだけだ」

綱吉の答えに、雲雀は不満そうに顔をしかめる。だがそれ以上は何も言わず、再び綱吉の手を引いて歩き出した。




家に着くと早々に雲雀は綱吉を抱き寄せる。
そのまま反転して壁に押し付け、目線を合わせてキスをした。

「…っ!」

押し付けるだけのキスで、すぐに唇は離される。綱吉は驚いたように雲雀を見つめた。

「ムカツクくらい君が好きだよ。あんな草食動物にさえ嫉妬するほどにね」
「恭、弥…」
「ねえ。どうしたら僕だけを見てくれる?君が僕だけを望んでくれるなら、なんだってしてあげるのに」

綱吉を見つめながら、まるで焦っているかの様に雲雀からは想像もつかないような台詞を言った。それに対し綱吉は些か驚くが、すぐにあのオレンジ色の瞳になって口を開く。

「……じゃあ、平伏して誓って見せろ。お前はオレのものだって」

綱吉から出た言葉も、彼からは想像出来ないような言葉だった。否、今の綱吉ならありえるのか。
言われた雲雀は、驚きながらも笑って見せた。

「ワォ。まさか君からそんな事を命令されるなんてね。ますます好きになったよ」

やはりあの赤ん坊の影響か、と雲雀は内心思った。だがその言葉に見合うだけの力を持っているから悪くない。それどころか、この今は小さい少年はいずれマフィアのボスになるのだからこれくらい器量がないと、とさえ雲雀は思った。

「出来ないだろ?ならオレのやる事に…!?」

綱吉は言葉通りに平伏す雲雀に言葉を失った。雲雀は方膝を付き、深々と頭を下げて言葉を紡ぐ。

「僕は君の守護者だ。だから、君のものだよ」

暫く呆然とした綱吉だが、不敵に微笑み雲雀の顎を片手で上げた。雲雀は大人しくされるがままだ。

「僕がここまでしてるんだ。良い返事を期待してるよ」

そう言った雲雀に綱吉は、返事代わりの接吻けを送った。雲雀はそれに満足そうに微笑む。

「本当は…前からオレも好きだったよ…」
「僕を試したの」
「試してるの」

綱吉は雲雀を包むように抱き締めながらそう言う。

「今夜が最終試験」
「へぇ、楽しみだ。内容は?」
「…オレに痛い思いさせないで抱くこと」
「簡単だね。楽勝だよ」

二人は顔を見会わせ、互いに怪しく笑んだのだった。



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