2013-07-07(日)
大阪のおばさん
その人は、
私の人生にとても大きな影響を残し、親よりも親であり、血縁を超えて、
国籍も越えて、唯一無二でありました。
それだけの関わりにあったのに、
一度たりとも私を傷つけたことはなく、今思えば、観音様の化身であったのかもしれません。
彼女は、いつも、
私の一番の味方だったのです。
いいえ、訂正します。
全宇宙にたった一人だけの
味方だったのです
私は、自宅での抑圧を解き放つかのように、彼女の家では傍若無人な、生き物でした。
子どもという着ぐるみを着て、
魂は精神の齢や凡例をさまよい、
生意気な言葉を吐き出し、大人を嘲ることばかりをして、勝ち誇ることで快感を得る餓鬼でした。
それでも彼女は、
一度たりとも、微塵とも、
私を大きな声で怒鳴ったり、高圧的に指導しようとはしませんでした。
彼女は掃除も料理も洗濯もアイロンも整理整頓も家具のセンスもファッションもお花の活け方も、とにかく何もかもが完璧でありました。
たまに失敗してしまうのは、
日曜の将棋の録画ぐらいでした。
風邪をひいて熱を出すと、
小さなちいさな海苔巻きが、
お皿にキレイに並べられて、お膳と共に運ばれて来ました。
無論、おかずや汁物も無駄のない盛り付けと味付けで私の病魔を退治することになりました。
名字が変わって初めて公衆の前で名乗った時も、
パンツについた初めての茶色いシミがなんなのかわからなかったときも、
彼女は、私の傍にいました。
自我を持つようになった私は、
私を護るために為される助言が理解できず、受話器を一方的に何度となく切りました。
そんな年頃を迎えてまでも、
彼女は、ただ慎ましやかに私の心の傍らにいてくれました。
そんなある日の突然です。
神様は私に、
今までの罰を
お与えになったのでしょうか。
彼女は私に、
衰えた自分を晒すことなく、
私の五歳から二十歳までの十五年間に一度たりともの傷を与えることなく、さよならまでも与えず…
お空の雲になりました。
真っ白なまっしろな
彼女を想わせる、お空の雲に。
でも彼女は、
大阪のおばさんは、
お空から私の心に、
贈り物をくれました。
本当に気品高く、
叱咤などという行為を利用することなく、
最後まで彼女らしい形で、
絶対に消えることない焼印の様に。
『ありがとう』
『ごめんなさい』
この2つの言葉を。
「みこけちゃーん、わかったやろぉ?
『ありがとう』と『ごめんなさい』
は、ちゃんと伝えやなあかんねんでぇ。
言いとうても言われへんのん、
しんどいやろぉ。
せやから、これからはすぐに伝えやぁ。
」
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