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不透明な愛を君へ贈る


2013-10-14(月)



イライラしてるんだろうなあ,だなんてふと気づく。
放つオーラと言おうか。
「そか?別にいつもと変わらなくね?」だなんて友人は言う。
まあそうだろう。だって彼は普段通りに振る舞っている。それはもう男優賞を贈りつけたくなるくらいには完璧に、"普段通り"の自分自身を演じる彼。
へらへらスマイルは変わらずべったり張り付いて、情けない垂れ目も八の字眉もそのままひっついている。自棄に陽気に演じてみせる事が問題であり、へらへら情けないスマイルは重要点ではなかった。
黒崎一護は眉間の皺を一本増やして浦原喜助を見る。

「さあて黒崎サン,お待たせしましたねん。今日は何用で?」

陽気に、いつも通りに振る舞う彼。
お茶らけた物言いもいつも通り。
通常運転も様になってきてる今日この頃。
矢張りそれはやり過ぎだな,と黒崎一護はひっそり思う。

「機嫌、悪いのか?」

不意に問われた言葉にカタリと浦原喜助の動きが止まった。

「なんで?」

にっこり笑顔で問い返される。

「あからさまだから」
「おや,それはそれは。参りましたねえ」
「それ」
「どれ」

矢張り笑顔は貼り付けたまま。益々胡散臭い。否、胡散臭いなんてもんじゃない。あからさまな壁が黒崎一護と浦原喜助の間に出来上がっている。目に見えない壁程、手に負えない物はない。

「その笑い方は嫌いだ」

子供はストレートに嫌いだ好きだと表現しては言葉の重みを知らずに吐き散らかす。これだから子供は,だなんて狡賢い大人はほくそ笑んだ。

「ビンゴですよ黒崎サン,残念な事に今日は虫の居所が悪い。」

ふふん、勝ち誇った笑顔を見せる分、これは厄介だと思った。黒崎一護の顔が険しくなる。

「どんくらい?」
「べらぼうに」
「…あっそ。でも俺には関係ない。用が済んだら帰るよ。出すもん出せ」
「言葉の使い方には気を付けた方が良いっスよん」

にこにこ、へらへら。
相も変わらず笑顔の癖に大人は物騒なオーラだけを子供に放っては八つ当たり。

「八当たりしてんなよ。用が済んだらって言ったろ、頼んだものを受け取るだけだ。」
「天の邪鬼なアタシが素直に差し出すとでも?」

にんまり、今度は彼の中の蛇が笑う音がした。
パチンと扇子を折りたたみ、口元のいやらしい笑みを見せたままで浦原は店の奥へと引っ込む。足音ひとつ立てずに振り返る事もせず安易に背中を見せる。
"着いてきなさいな"
挑発とも受け取れる仕草に一護の眉間の皺は増える一方だ。

「浦原」
「おいで、アタシの部屋にあるから」
「いやだ」
「なんで」

背中に語りかけても彼は有無を言わせない。

「お前は、…そーいう時は」

浦原は、こういう時が一番恐ろしい。
乱暴はしない、無理強いもしない、選択肢を一護に与えるだけ与えて、子供の自身に選ばせて保険をかけては好き勝手する。好き勝手するくせに彼のガラスの瞳は何も映さない。一切合財放棄して嘲笑にも似た笑みを見せるから、一護はこの場合の浦原が好きではなかった。それは身を持って知っている事だ。

「…いやなんだ」
「乱暴はしない」

いつの間にか戻ってきた彼が一護の目の前に立ちはだかる。
影の出来た足元に彼愛用の甚平の色がちらりと見えた。

「優しくもしない癖に」

小さな小さな罵声が足元の影に消える。

「…優しくする」

ウソツキ、咄嗟に思った。
ふるりと振るった首。無言のまま。なんて子供っぽい仕草。
オレンジ色の髪の毛に指をはわせて一撫で、そして甘やかす様に後頭部へと手を流しては引き寄せて自身の胸へと抱き込んだ。あ、あったかい。子供の温度がじんわりと無い心臓に滲む感覚がする。

「優しく、しますから。ね?」

途端に何かが浦原の心臓部位からころりと音を立てて落っこちた。
きっと、蟲が落っこちた。
もう一度囁く。

「優しくするよ。させて」

まるで懺悔をする様に、許しを乞う様に、子供だけに聞かせる様に、子供が安心する様に、腹の足しにもならない甘ったるい声で誘ってみせた。













こくり、小さく子供が頷く音が心臓に響く


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